「みょうじさん、このプリントさ」


写し損ねた空欄を見せてもらおうと思って振り返ると、後ろの席のみょうじさんは机に突っ伏してぐっすり眠っていた。


「…勝手に見るぜ?」


お邪魔しまーすと耳元で囁いて、きっちり綺麗な字で埋めてあるプリントを、彼女の腕と机の間から半ば無理やり引き抜く。


「ひゃっ」
「あ、おはよー」
「お、おはよ…?」
「これ、勝手に借りたから」
「え、ああうん…あの御幸くん?」
「ん?」
「さっき、耳元で何か言った?」
「あーうん。お邪魔しまーすって」
「うわああやっぱり…」
「それがどうかした?」
「ずっと思ってたんだけどね、」


ずい、と身を乗り出してくる。さっきまで寝ていたとは思えないほど目がぱっちりと開き、輝いている。


「御幸くんの声ってエロいよね」
「は?」
「耳元+囁きだとエロさは3割増しだね!」
「え、いやちょ」
「はあああ、いいなああ!私ね声フェチなんだー」


御幸くんの声は私史上堂々の2位だよ!福山さんには勝てないけどね!と嬉しそうに言う。


「喜んでいいのか俺は」
「えっ嬉しくない?私はあの、えっと誰だっけ、一年生のさーよく御幸くんが話してる」
「沢村?」
「あ、そうそう沢村くん!が羨ましい」
「なんで?」
「私もこの声で罵られたい」


変態か。


「愛を囁かれたいとかじゃなくて?」
「だってそれされたら惚れちゃうでしょ!声のエロいイケメンに耳元で愛なんか囁かれたら誰だってオチるよ」
「へー、誰でも?」
「うん、そうそう誰でも。だからさ御幸くんも、私じゃなくて好きな子の耳元で囁いてあげたらいいよ」
「好きな子ねー…」
「私のことは罵ってくれたらそれでいいから」
「ドMなの?」
「いやそういうのじゃないけど」
「しょうがねえな、耳貸して」


ん?と少し不思議そうに寄ってきた耳元に、






「好きだよ」






「ちょ、え、」
「好きな子に言えってみょうじさんが言ったんだぜ?」
「え、じゃあ」
「オチた?」


無言で袖を掴んでくる手を優しくほどいて握ってやると、きゅ、と握り返してくるのがたまらなく可愛いと思った。


リッスントゥー・ラブ
(我ながらキザだったな)










これはリハビリが必要ですな



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