「倉持ー、こないだ貸した漫画の続き持ってきたけど」
「おー、俺も新しいの持ってきた。隣行こうぜ」
「んー」


私たちのクラスは学年の端っこで、隣は講義室(第何講義室かは定かじゃないけど)。教室よりちょっと広く、人も少ない。私たち、つまり私と倉持は、たいてい昼休みはこの講義室で漫画を読むか課題を片付けるか(倉持の赤点回避の勉強をするか)して過ごしている。


「御幸一人にしていいの?」
「いいんじゃね。スコアブック見てて気づいてねえみたいだったし」
「倉持の影が薄いんじゃない」
「うっせ。それより早く貸せよ。続きめちゃくちゃ気になってたんだよこれ」
「この人、終わらせ方うまいよねー」
「そうそう、思わず買いたくなる感じ」
「私はその罠にはまっちゃったわけだ」
「俺はそれに便乗してるわけだ」


ここで会話がふっと途切れて、私たちはお互いに借りた漫画に没頭し始める。いつものことだ。一回この光景を見た友達には、何か怖い、と真剣な顔をされたけど。


読み始めて、唇の乾燥に気づく。がさがさではなくて、こう薄皮が綺麗に剥けそうな軽い感じに。剥けそうだと剥きたくなるから困る。しばらく唇をいじっていると、一冊目を読み終えて顔を上げた倉持が眉をひそめた(元ヤンなだけあって凄味がある)。


「やめろよそれ」
「え?」
「唇」
「なんで」
「気になる、痛そう」
「私だって気になる」
「リップでも塗っとけ」
「教室。取りに行くのめんどくさい」
「お前それでも女子かよ」
「すいませんねー女の子らしくなくて」


まあこんなところで男子と二人、漫画(しかも少年向け)読みふけってる時点で女捨ててるけど。


「おー倉持いた」
「あ?何だよ御幸」
「何で勝手にいなくなるんだよ、寂しいだろ」
「「キモ」」


突然現れた御幸に、私と倉持の声が綺麗にハモる。一瞬傷ついた顔をする御幸。


「冗談だって」
「お前が言うと微妙に冗談に聞こえねんだよ」
「で、どしたの御幸」
「えっ、用事がないと来ちゃだめなわけ」
「「キモ」」
「…」
「ごめん御幸、冗談だって」
「だよなーよかった」
「いや、俺は結構本気」
「倉持くん、俺が傷ついてるんだけど」
「まじで?今日は飯が美味く食えるわ」
「おいおい…あ、なまえ」
「ん?」
「血ぃ出てる」


御幸が唇を指して言う。舐めてみると確かに鉄っぽい味。


「うわーいじりすぎた」
「だからやめろっつっただろ」
「リップ持ってねーの?」
「教室のポーチの中!御幸取ってきてー」
「俺パシリかよ」
「いいから行ってこいよ」


御幸がぼやきながら講義室を出る。部員と女子にパシられる主将ってどうなんだろうか。


「結構出てる?」
「おー。止まってねえ」
「うわーどうしよ。血止まんないとリップも塗れないし」
「…止めてやろーか?」
「え?どうや」


って、という言葉は倉持の唇によって塞がれた。


「…血の味、する?」
「今聞くこと、それかよ」
「あ、でも止まったみたい」
「よかったな」
「私さー唇むいちゃう癖が治んないから」
「おう」
「また血出たら倉持に止めてもらおうかなー」
「…任せろ」


あ、別に血出てなくてもいいんだけどね?と付け足すと、ばーか、言われなくてもそうするわ、と倉持はあの独特の笑い方で笑った。








気付けばいつも隣に君がいた
(これからもきっと)




(はっはっは、戻りづれーよ馬鹿)










御幸、気を遣う。



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