「純ー」
「おうどうした」
「冬休み、いつ帰るの神奈川」
「正月の二日間だけだな」
「じゃあー私も一緒に帰る」
「何でだよ。もっと早く帰れんだろ」
「だって純と一緒でないと電車乗れないから」


あはは、と笑う言葉はあながち冗談でもなく、幼馴染のなまえはべらぼうに世間知らずの方向音痴。頭はいいけどド天然。小さい頃から俺の後をくっついてきたけど、まさか高校まで一緒になるとは思ってもみなかった。青道の女子寮は集団部屋だしセキュリティもしっかりしてるしで、あんまり心配もいらねえから助かるけど。おかげで三年になる今まで、これといった事故は起こさずに済んでる。


「わーったよ。券も俺が取っとくから」
「お世話になります」
「お前はおとなしく過ごしてろよ」
「はーい」


ありがとう、と言ってふにゃっと笑うなまえ。可愛い、と評判らしいが俺にはよく分からん。


「じゃあまたねー」
「おう」


教室を出て自分のクラスへ帰ろうとして、ドアの溝に躓いてよろけるなまえ。前言撤回。どこにいようと心配は尽きねえ。


「おっとー」
「わ」
「危ないよ、みょうじさん」
「ごめんねー小湊くん、ありがとー」
「いえいえ。純のとこ来てたの?」
「うん。冬休み一緒に地元帰るの」
「そうなの?野球部の練習、純も参加するよ?」
「お正月にはお休みあるんだよね?その時、一緒に帰るの」
「それじゃみょうじさんもあんまりいられないんじゃない?」
「そうなんだけど、私純がいないと一人で電車乗れないから」
「あはは、可愛い」
「どうにかしないとって思ってるんだけど…あ、予鈴」
「じゃあね」
「うん、ばいばい小湊くん」


亮介が俺のところへまっすぐ歩いてくる。


「悪ぃな亮介」
「いーえ。本当、相変わらずだよねーみょうじさんは」
「三歳から成長してねえんだよ」
「でも可愛いよね」
「17年も一緒にいちゃ分かんねえな」
「は?そんなの関係ないでしょ」
「何でちょっとキレてんだよ…」


亮介は、ばか純、と俺の頭に一発、理不尽な怒りをぶつけた。


「いや何で殴られてんだ俺」
「そんなんじゃ他の男に取られちゃうよ?いいの?」
「いいも何も」
「俺とか」
「はあ?」


亮介がにや、と不適な笑みを浮かべる。


「純が本気出さないと、狙っちゃうから」
「え、ちょ、待て待て亮介」
「なに」
「お前、なまえのこと好きなわけ?」
「…さあ、どうだろうね?」


とにかく宣戦布告、と俺を見据えて呟く亮介。意味分かんねえ。




















数日後、ちょっと用事があってなまえのクラスに行くと、フミと楽しそうに話しているなまえを発見した。


「あ、純だー」
「あれ、どうしたの純」
「おー。お前ら仲良かったっけ?」
「だって一年からずっと同じクラスなんだよー」
「そうだったか?」


同じ学校にいても何も知らねえもんだ。昔はこいつのことなら俺に聞け!ってくらい詳しかった。何でも知ってたのに。


「フミくんはね、最高の相談相手なんだよー」
「俺もよく話聞いてもらうんだよね」
「もうお互いのこと知りすぎて以心伝心みたいな!」
「あはは、なまえ言い過ぎー」


仲の良さそうな二人を目の当たりにして、正体の分からないもやもやに頭を支配される。


「あー…俺、帰るわ」
「あれ、何か用事だったんじゃないの?」
「また今度でいい」
「そう?」
「荷造りちゃんとしとけよ。そこまで面倒見てやれねえぞ」
「はーい」


純、お母さんみたいだねえ、と暢気に笑うなまえに、頭のもやもやは増大していく一方だった。
















「あーそれはもう」
「は?」
「恋っすねー」


いやあ純さんも隅に置けないっすね!と笑う御幸を一発シバく。


「いってえ…」
「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ」
「いいじゃないすか、みょうじ先輩可愛いしー」
「そういう問題じゃねえだろ」
「もう恋の病以外考えられませんよー。純さん、少女漫画は読んでも自分のことには疎いんすね」
「んなことねえよ」
「ありますって!フミ先輩と仲良さそうなの見て嫉妬とか」
「嫉妬じゃねえって!」
「じゃあ何なんすか?」
「それは…」


言葉に詰まる。


「…とにかく違えって!あーお前に話した俺が馬鹿だった。昼休み無駄に潰しちまったわ」
「うわ、ひでー」


御幸と別れて、一人ぼーっと教室で窓の外を眺めていると、ふと見慣れた人影が二つ目に入った。はっとする。



亮介と、なまえ。




タイミング悪すぎだろ、とため息をつく。御幸が変なこと言うから、意識しちまってしょうがねえ。


「…?!」


何となく(あくまで何となく)連れ立って歩く二人を眺めていると、いきなり亮介がなまえの肩を掴んで、顔をそっと近づけていく。なまえの驚いたような顔が一瞬見えて、すぐ亮介に遮られた。


何やってんだ、あいつは。



自分でもよく分からないうちに、俺は走り出していた。


























「亮介!」
「あれ、純じゃん」
「へ?純?」
「何しようとしてんだテメェは」
「何のことか分かんないんだけど」
「すっとぼけんな。まだお前の女じゃねえだろ、こいつは」
「純のでもないよね?」
「は?」
「純に止められる筋合いはないと思うんだけど…ああ、母親的なアレで?」
「テメ、ふざけんなよ」
「ねーみょうじさん。頭の上に止まってた天道虫取ってあげたくらいで、何で俺が怒られなきゃいけないんだろうね?」
「はあ?」


一瞬、ぽかんと口を開ける。


「そ、そうだよ純、小湊くんのこと怒らないで…純が天道虫好きなのは分かったから…」


盛大に勘違いしている奴が一人と、


「ねー。何でこんなに怒ってるのかな純くんは」


してやったり顔の奴が一人。






ハメられた。




「ま、俺はそろそろ退散しようかなー」
「あ、おい待てよ亮介」
「話があるなら後で聞くよ」


さっさと帰っていく亮介。残された俺となまえ。


「純?」
「…あーあ、亮介の奴。こりゃ俺の負けだわ」


多分あいつは最初から分かっててやったんだろう。食えない奴。後でジュース奢ってやろう。御幸にも。それからフミには一発くれてやらねえと。





気づいたら負けのゲーム
(どうやら決着がついたみたいだ)



「なあなまえ」
「なに?」
「お前、好きな奴いるか?」
「え?何急に」
「いいから」
「んー、小湊くんとか結城くんとかフミくんとか、優しいから好きー」
「…そういうことじゃなくてな」
「あ、でも純が一番すき」


ふにゃあ、といつもの笑顔を見せるなまえ。






長丁場になると思うけど、絶対いつかは逆転勝ちしてやる。勝算はありそうだしな。










久々で純の口調が分からん(^q^)






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