とうとう洋一が東京にやって来る。駅のホームで待ちながら、どんな顔で会おうと鏡とにらめっこしていると、べしっと頭を叩かれた。よお、と、記憶の中より低い、でも聞き慣れた声。


「なに一人で百面相してんだ?」
「よ、洋一!」
「変わんねえなー、お前」
「洋一…は、変わった、ね?」


声変わりして、背が伸びて、心なしか全体的に筋肉質になった体に違和感がある。もっとも、中身はあんまり変わってないみたいだけど。


「そうかあ?まーいいわ、行くか」
「あー、うん」
「東京マジ久しぶりなんだけど。道案内よろしくー」
「はいはい…態度でかいよ、居候のくせに」


ん、あれ。何かおかしくないか、自分。何で普通に再会果たしてんの?二年前のことについては何も触れないの?ていうか何であんたも平然としてんの洋一。何か言えよ!















「洋くん、いらっしゃい。久しぶりねー、大きくなって」
「おばさんは変わらないっすねー!」
「あら、可愛いこと言ってくれるわね。お兄ちゃんの部屋片付けてあるから、そこ使ってね」
「あ、はい」
「もう遅いし疲れたでしょ?お風呂入って寝ちゃいなさい。なまえ、荷物持ってってあげて」
「はいはい…私、明日の朝入るから。おやすみー」


部屋に戻って、ベッドにダイブする。お兄ちゃんの部屋、つまりこれからしばらく洋一が使う部屋とここは、かつて一つの子供部屋だった。それをふすまで仕切っただけ。違う部屋なのに、洋一を近くに感じてしまって困る。


30分もしないうちに、洋一が部屋に入る気配がした。はあ、とため息が聞こえてくる。疲れたのかな。


「なまえ」
「へ、はいっ?!」
「何だそれ。…ここ、開くのか?」
「開くよ」
「あ、そ…なあ、もう寝るか?」
「ん?いや、まだ寝ないけど」
「じゃあ、ちょっと付き合えよ」
「何に」
「…昔話?」


よく分からないけど、付き合ってあげることにして、ふすまの前に体育座り。薄い壁越しに洋一と背中合わせ。多分。


「…お前さ、無防備すぎねえ?」
「はあ?」
「こんなん、ほとんど同じ部屋じゃん」
「…洋一相手に、そんな気回さないよ」


ちょっと嘘。ほんとは今もどきどきしてる。


「お前にキスした相手なのに?」
「っ…!な、」
「忘れたわけじゃねえだろうが。…っつか、そんなの許さねえし」
「よ、洋一?」
「ちょっとは意識しろよな、馬鹿」
「何言ってんの…?」
「…じゃ、ここから昔話。二年前…お前がさ。俺のこと全く男として意識しないまま東京行っちまうと思って、焦ってたんだよな。しかも、東京行きの話とか、俺には言ってくんねえし。だから、離れてる間、俺のこと意識しっぱなしになるようにしてやりてえと思った」
「洋一、」
「やっと会えたと思ったら、何かお前、普通だし。何も変わってねえの、嬉しいけどよ」
「いや、ちょ、待っ、」
「ったくよ、多少変わっててもいいんじゃねえ?俺の勇気は何だったわけ?」


喋りっぱなしだった洋一が不意に黙り込んで、訪れる沈黙。いや待て洋一、そこで黙るな。私まだ、大事なこと、聞いてない。


「あの…洋一?」
「…んだよっ?!何か言えよ、俺が恥ずかしいだろ!」
「いやさ…だから、あのね。意識してないなんてこと、全くないから。むしろしまくってて、それを隠すのに必死でしたから。普通だったのは洋一のほうでしょー…それに私、この二年間、洋一のこと忘れた日なんてないんだけど」
「…なまえ?」
「何でキスなんかしたの。何で連絡一つもしてくれなかったの。何で…何で、こんなかっこよくなってまた私の前に現れんの?」


馬鹿、と呟いた瞬間、もたれかかっていたふすまが急に開いて、支えを失った私の体は後ろにふらっと倒れこんだ。正確に言うと、洋一の腕の中に、倒れこんだ。


「…よーいちくーん、びっくりするでしょー…」
「…え、何?お前…やっぱ変わった。そんな可愛げのある奴じゃなかったよな」
「失礼な」
「…二年前の続き。いい?いいよな」


暗闇の中でも分かるくらい、洋一の顔が、近づいて、近づいて、近づいて。


「ちょっと待て洋一」
「…何だよ」
「私まだ、大事なこと、聞いてないんだけど」
「はあ?」
「つまりあれか。…あんたは私が好きなのか?」
「…今までの流れで分かんだろ?!」
「はっきり言ってくれないと分かりませーん」
「そーゆームカつくとこは変わってねえな!」


洋一が、ちっと舌打ちしてから、少し呼吸を整える。



「好きだ」



顔と顔、唇と唇の距離が、また0に近づいていく。全く、私の返事も待たずにせっかちなんだから、と、諦め半分に目を閉じた。





二年越しのキスは、記憶の中より甘い味がした。



全ての音が聞こえる距離で
(想ってるだけで伝わりそうだ)











おわたー\(^o^)/



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