洋一が、東京に来る、らしい。お母さんが喜々として夕食の席で話している。ちょっと手のかかる息子が欲しかったらしいお母さんは昔から、いとこの中でも洋一が一番のお気に入りなのだ。お兄ちゃんは優等生だし、私は何より女だし。ヤンキーよりマシだと思うのは私だけかな。


東京に来る前は、しょっちゅう洋一と一緒に遊んだっけ。いい遊びも、悪いアソビも、全部洋一が教えてくれた。地元を離れて二年が経って、私も春から高校生になる。


「それでね…ちょっとなまえ、聞いてるの?」
「聞いてる聞いてる。洋一が何だって?」
「もう…だから、来週から春休みでしょ?洋くん、下見しに出てくるから、しばらくうちに泊めるからね」
「あー……」


ナルホド、把握。洋一が春休み中、うちに泊まる、と。



……ん?泊まる?


「…っはああ?!何で!寮入るんじゃないの?!」
「まだ開いてないの。東京の案内とか、色々あるでしょ?なまえに任せるからね。頼んだわよ」
「やだよ、何で私が…!」


そう、絶対嫌だ。こんなにも急に、しばらくマトモに会ってないいとこの世話を任されるなんて。あまつさえ一つ屋根の下で春休み中過ごさなくてはいけないなんて。しかも相手は洋一。


忘れもしない、中一の冬――私のファーストキスを奪った男。







「お前、東京行くんだって?」
「あ…うん」
「何で言わねえんだよ」
「お、おばさんから聞いたかなって」
「…ったく、分かってねえなあ…」
「え?」
「あー、何でもねえ。なあ、なまえ」
「なに?」
「俺のこと、忘れんなよ」
「忘れるわけないでしょ、いとこなんだから」
「ヒャハ、それはそうだな」
「うん」
「でも、違うんだよ」
「え、ちょ、洋一…?!」





「…忘れんなよな」








一体、どんな顔して洋一に会えばいいっていうんだろう。訳も分からず唇を奪われたあの日を境に、洋一には会ってない。だから次会ったら許さない。見送りに来なかったことも、連絡の一つもよこさなかったことも、忘れようとしても忘れられなかったあのキスのことも。全部全部、二年分合わせて、責任取らせてやる。待ってろ洋一。





「会いたい」なんて言わない
(そんなこと思ってないからね!)











後編に続きます!



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