「今年もシングルベルか…」
「こんなイイ男侍らせといて、よく言うぜ」
「え?どこ、イイ男。御幸が邪魔で見えない」
「こんな近くで見えないって…目悪いんじゃねえ?」
「眼鏡に言われたくない」


私たち青道高校野球部は、冬休みの開始と同時に合宿に入った。もちろん、マネージャーの私も別棟に泊まりがけ。夏に比べて期間が短いから楽でいいけど。


「百歩譲ってもシングルではないだろ?」
「気持ちはシングル」
「俺がいても?」
「何の足しにもならないわ…」
「うわー傷つく」


そして今日はクリスマス。残念ながら、寮を抜け出してまで会いたい相手はいないもので、なぜか私は御幸の部屋で開催されているパーティーに巻き込まれていた。狭い部屋に男ばっかりで冬なのに暑苦しい。


「御幸先輩、ジュース飲みます?みょうじ先輩も良かったら」
「お、ありがとなー小湊。なあ聞けよ、なまえのやつ、俺らがこんだけ構ってやってんのにシングルベルだってよ」
「え?あー…あの、すいません。お役に立てず…」


全く悪くないのに申し訳なさそうに謝る小湊くんを、慌てて宥める。ああこの子ほんとに可愛い!


「違う違う誤解!」
「ほ、ほんとですか?」
「ほんとほんと!ってか私、小湊くんがいればいいわ。うん、満足。リア充万歳」
「えっ?」
「おい、パワハラはやめろ」
「合意の上だよー。ね、小湊くん」
「え、あ、はい…?」


困惑したように頷く小湊くんの頭をくしゃっと撫でる。うわあさらさら!


「ああ…癒されるわー…」
「あ、あの先輩?」
「おいなまえ」
「なに御幸、邪魔しないでよー私と小湊くんの至福の時間を」
「いいからちょっと来いって」
「ええ?…ごめんねー小湊くん、ちょっと待ってて!」
「はあ…」


私の腕から逃れた小湊くんがむしろ安心してるように見えたのは錯覚だったということにしよう。








何はともあれ、御幸について部屋を出る。ひやりとした空気に包まれて、ひとつ身震いした。


「なに、寒いんだけど」
「小湊といちゃつきすぎ」
「はあ?」
「俺も構ってよ」
「何言ってんの?」
「あーあーもう。せっかくこれやろうと思ってたのに」
「え?」


御幸から手渡された、四角い小さい箱。赤色のラッピングが可愛い。え、これって、もしかして。


「何の足しにもならねえかもだけど?」
「え?み、御幸?何、これ何で」
「見て分かんねえ?」
「…分かんないよ、馬鹿御幸」


だからはっきり言って。そう目線で訴えかけると、私の言わんとすることを理解したのか、御幸が頭をかいてため息をついた。


「クリスマスプレゼント」
「"何で"にも答えてよ」
「…お前が好きだから?」
「…聞くな、馬鹿」
「うわ、さらっと流された。…まあ、嬉しくねえんならいいけど。さっさと部屋戻って小湊といちゃついてれば?」
「嬉しくなんかっ…ないわけじゃ、ないけど!でも私、何も用意してないよ?」
「ああ、期待してねえし?」
「なっ、」
「だからさー」
「ひ、ひゃあっ、」


返事だけちょーだい。


耳元で囁いて、不敵な笑みを浮かべた御幸はやけに自信満々に見えてむかつく。これから自分が、その自信を裏付けてやるようなことを言わなきゃいけないのにもむかつく。まあ、何もかもクリスマスの高揚感のせいにして、一年に一回くらい最高に恥ずかしくて甘い愛の言葉なんてものを贈ってみるのも悪くないかもしれない。





Present for you
(the word "I love you...")









メリークリスマス!



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