昨日の夜、一年とちょっと付き合った彼氏に別れを告げた。嫌いになったわけじゃないけど、理由もなく付き合ってるのが虚しくなったから。我ながら勝手な女だ。いつも一緒に食べていたお昼だけど、今日から一人だ。誰に声かけようかなあ、と辺りを見回していると、突如頭に鈍い衝撃が走った。


「何辛気くせえ顔してんだよ」
「伊佐敷のくせに洞察力抜群だね!」
「喧嘩売ってんのかてめえ」


伊佐敷は私をぎろっと睨んでから自分の席にどっかり座り、まあお前も座れや、と前の席を勧めてきた。


「そのスバラシイ洞察力で当ててやろうか」
「んー?何をー?」
「別れたんだろ」
「…」
「その調子じゃフラれたか?ケッ、ざまあねえな」
「ちっがうし。私からフッたんだしー」
「はあ?じゃあ何でそんなに落ち込んでんだよ。今更未練か?」
「なわけないでしょ。…自分でも、よく、分かんない」


はあー、とため息をついて紅茶をすする。伊佐敷がなにやら難しい顔をして何かを考えこんでいたかと思うと。


「…おい、ちょっと来い」


急に伊佐敷が私の腕を掴んで引っ張った。引っ張られるがままについて行くと、伊佐敷は屋上の入り口で足を止めた。人気がないので有名な、我が青道高校の告白の聖地だ。


「何。…もしかして告白とかー?」
「ああそうだけど悪いか?!」
「へ?」


予想外の返事に、思わず間抜けな声を上げてしまう。


「私のこと…好き、なの?」
「あいつと付き合い始めるのよりずっと前からな」
「全然気づかなかった…伊佐敷分かりづらっ!」
「うっせ!いいから俺と付き合えよ。頼むから」
「こんな上から目線なのか腰が低いのかよく分かんない告白初めてだわー」
「なっ…」
「面白いなあ、伊佐敷はー」
「茶化すなよ、俺は真剣に…」
「うん分かってる」


聞かなくても、耳まで真っ赤になった顔が全てを物語っている。


「伊佐敷で手打ってもいいかなー」
「何妥協してんだ腹立つな…って、え?おいそれって」
「付き合ってみよっか。案外うまくいくかもね、私たち」
「はあ?え、ちょっ…いいのかよ、そんなんで…」
「えー、何嬉しくない?やめとく?」
「いやっ、違くて!予想外すぎて混乱してんだよ」


うん分かってるよ、だって君は分かりやすいもの。わたわたしてる伊佐敷が何だか可愛くて、いじめたくなって、私はそんな自分もおかしくてくすっと笑った(わあまるで小湊くんみたい)。


「伊佐敷…」
「な、なんだよ?」
「…大事に、してね?」


上目遣いにそう言うと、みるみるうちにまた顔の赤みが増す(人の顔ってあんなに赤くなれるんだね!)。


「…お前はっ、」
「え?ひゃ、わっ」


気がついたら伊佐敷の腕の中にいた。どくどく波打つ心臓の音がダイレクトに耳に響く。


「大事に、するから」
「…」
「もう、そんな顔すんな」
「…うん」


ねえ伊佐敷、私分かったよ。何で別れるつもりになったのか。多分、伊佐敷のせいだよ。伊佐敷のこと好きになっちゃったから、他の人と付き合うのが虚しくなったんだね。今やっと分かった。だって私、伊佐敷の優しくて逞しい腕の中でこんなにどきどきしてる。伊佐敷のより、私の鼓動のほうがずっと落ち着きがない。


悔しいから、言ってやんないけどね。








恋が始まる音がした












言ってやれよ…←



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