河川敷をランニング中、小学生らしい集団が野球をしているのが目に入った。懐かしくて思わず足が止まりかける。

親によると、俺が初めてボールに触ったのは2歳のときだったらしい。そのときの写真は、高校球児とそのマネージャーだった両親がばっちりアルバムに収めている。小さい手に有り余るくらいのボールを握って満面の笑みの、俺。やっぱやるべくしてやってるんだ、って実感したっけ。


「鳴、ペース落ちてるよ」


隣を自転車で走っていたなまえに言われてはっとする。マネージャーでもあり幼馴染のなまえは、野球より先に出会っていた数少ないうちの一人だ。


「悪い悪い」


足を速めようとすると、ああいいよ、と腕で制される。


「せっかくだし、見ていく?…懐かしいでしょ」
「あ、ばれてる?」


ばればれだよ、と笑うなまえ。さすが、生後1ヶ月からの付き合いは伊達じゃないってわけ。


なまえが自転車を止めて、2人で芝生に座り込む。


「あのくらいの鳴は可愛かったなー」
「今は?」
「…」
「こら、何か言え」
「言わなーいよー」
「何だよー」


かっこいいって言えよな、なんて密かに心の中で呟く。


「あー本当、あの時の鳴は可愛かったなあ」
「いつのこと思い出してんの?」
「…かっこよかった、しー」
「はあ?!今のがかっこいいっしょ!」
「さあ、どうだろうねー?」


撤回しろー、と頬を抓ろうとすると、ころころ、と白球が転がってきた。つい手に取って指に挟んでみる。高校とのサイズの違いに戸惑いと懐かしさを覚えた。


「すいませーん」
「おー」
「…あれ、もしかして」
「ん?」
「成宮鳴?!」


うお、ばれた。目の前には、きらきらした瞳で俺を見つめる小学生。


「そうだけどー?」
「うああ、本物!ちょ、おい来てみ!」


小学生が、他の奴らに向かって叫ぶ。何だ何だ、と、わらわら小学生が集まってくる。


「鳴、有名人じゃーん」
「人気者は大変だよな」
「自分で言うな」
「な、成宮さん!俺、成宮さんに憧れてて!」
「へえ。お前も投手なんだ?」
「うん!ちょっと投げて見せてよ!」


最初の小学生がお願いします、と手を合わせる。ちらっとなまえのほうを見ると、行ってきなよ、という風に頷いたから、しょうがないな、と腰を上げる。


「ちょっと行ってくる」
「ん。待ってる」
「あ、あの…彼女さんも、よかったらベンチのほうで待ちますか?」


いつの間にか側にいた、可愛い女の子がなまえを誘う。マネージャー、かな。っていうか、彼女って。思いっきり勘違いしてるし!俺は別にいいんだけどね、それでも。


「マネージャーの極意ってやつ、教えてやれば?」
「えー…ん、じゃあお言葉に甘えて、お邪魔しようかなあ」
「はい!どうぞ!」


嬉しそうな女の子となまえが連れだってベンチへ入っていくのを確認してから、俺も一回伸びをしてグラウンドに足を踏み入れた。











「成宮さんカーブ投げて!」
「ストレート速えー!」
「成宮ー!打たせてー!」
「成宮ー!」
「成宮さーん!」


「…わあ、大人気だねえ鳴」
「やっぱりこの辺りではヒーローみたいな方ですよね」
「そんないいもんじゃないけどなー…ね、六年生?何かすごく大人っぽいね」
「本当ですか?わあ、嬉しい。なまえさんは、すごく綺麗で羨ましいです」
「そうかな?私からしたら皆のほうが可愛くて羨ましいんだけど…鳴が皆くらいのときも、すっごい可愛かったんだよねー」
「そうなんですか?どんなだったんですか?」
「んー。私が女だから甲子園行けないってへこんでたら、俺がお前を甲子園に連れていく!とか言ってくれたりして。しかもほんとに連れてってくれちゃうし」
「…やっぱり、成宮さんと付き合ってるんですか?」
「へ?」
「お似合いで、憧れちゃいます…!私もそうなりたいな」
「…あ、もしかして、あの投手の子のこと、好きなんだ?」
「えっ…」
「あー図星だ。可愛いー」
「ちちち違いますっ!だってあいつ、いつも私にちょっかいかけてきてめんどくさいし…!」
「あーそりゃ惚れてんね。うん。男ってそういうもんだよ」
「鳴!」
「成宮さん!」


休憩と称して小学生を振り払い、いつの間にかガールズトークと化していたマネ二人の会話に割り込んでみる。


「そんぐらいの年頃なら、好きな女ほどいじめたくなるもんなんだよ」
「鳴さん!何言ってんだよ!」
「おお、投手の子」
「投手…お前、素直になれよ」
「名前は?!…とにかく、違いますって!」
「だーかーら。好きなら、俺がお前を甲子園に連れてってやるー!ぐらい言えよ、な?俺もお前ぐらいのときに通った道だぜ?」


な、となまえに同意を求めると、一瞬なまえの動きが固まって、え?と訝しげな顔をする。


「鳴、何勘違いしてるのか知らないけど…それ言ったの、私にだよ?」
「うん。…だから、好きな女って言ってんじゃん?」
「…え?あの鳴、それって」
「今も昔も、そーゆー意味で言ってんだけど!」
「わ、鳴さん告白?やっるー」
「成宮さん、かっこいい…!」


盛り上がる小学生二人。固まるなまえ。どうやら俺の真っ赤になっているだろう顔は誰にも見られてないみたいで一安心ってとこかな。




今ひとたびの意志疎通

(ほら、今の俺のがかっこいいだろ?)
(…んー、そうかも)
(好きになっちゃってもいいけど?)
(ばか。…とっくに好きだよ)











高1の冬くらいな感じ。



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