保健体育担当の先生は、よく言えばおっとりしていて、悪く言えば鈍い。よって、保健の授業は睡眠時間とみなしている生徒は決して少なくない。この間目が覚めたときに退屈だったから何人寝てるか数えようとしたら、途中で何人起きてるか数えるほうが楽だと気づいた。


まあ、俺も例に違わず保健の授業の恩恵は受けているんだけど、今日はなぜか全く眠くない。朝練だっていつも通り行ったし、しかも今日は授業どころかビデオ上映だっていうのに、睡魔は少しもやってこない。仕方なくスクリーンに目をやると、喫煙についての話をしているようだった。たばこについての知識だけ無駄につきそうだ。


ちらっと隣を見ると、なまえが気持ちよさそうに寝ている。寝息まで聞こえてきそうな勢いだ。『ぶっさい寝顔(笑)』とメールを送ってみる。起きたとき真っ赤になって怒るんだろうと思うと今から笑いがこみ上げてくる。再びビデオに視線を移す。たばこに含まれる有害物質について。確か前回ノートに取った内容だ。テストに出そうなプラスαをビデオの中で見つけてはちょこっとメモする作業を続けていると、チャイムが鳴って上映が止まった。寝ていた生徒がいっせいに伸びを始める。起立礼、の合図で一気に教室内に喧騒が広がる。ぐっすり寝ていたなまえも頭を上げる。


「御幸、ノート見して」
「今回ほとんど書くことなかったけど」
「前も寝てたから」
「あーそう」


ノートを渡して、それを写していく手元を何の気なしに覗く。


「ニコチンって青酸並みの毒性あるんだって」
「へー。そんなの書いてないじゃん」
「今日ビデオで言ってた」
「さすが仮初めの優等生御幸くんだね」
「仮初めってなに」
「いつもは寝てるくせに」
「俺は誰かさんと違ってノートはちゃんととってるけど?」
「うるさい眼鏡」
「ノート借りてる人に対する態度じゃねえな、それ」
「いいよじゃあ倉持に借りるから」
「冗談だって、お前の反応面白すぎ」
「遊ぶな馬鹿。あんたの中でのあたしはどういう扱いなのよ」
「ニコチンかな」
「はあ?」


思わず出てきた答えに自分でも驚く。ニコチン。いくら気心知れた悪友的存在のなまえとはいえ、女子を形容する言葉だとは思えない。


「あたしってそんなに毒ある?」
「んー、舌にはあるな」
「眼鏡殺す」
「ほらそういうとことか…あと」
「あと?」
「依存性があるとことか」


なまえが、はあ?ともう一度意味が分からないという風に眉を歪める。


「もう、俺はお前をからかわずには生きていけない」
「意味分かんない」
「平たく言うとお前がいなきゃ生きていけない」
「何か一気に愛の告白めいてるんだけど」
「そのつもりなんだけど」
「え?」
「あー何か俺お前のこと好きみたい」


保健の授業、それもニコチンを引き金に自分の恋心に気づくなんて、なんともロマンチックでない話だけど。


「どう?」
「…あたしも、好きかも」


ふい、と背けた顔は多分真っ赤なんだろうなと思うとなまえがどうしようもなく可愛く思えてきて、後ろからぎゅっとその細い肩を抱きしめた。





どうやら君には依存性があるらしい


(俺と付き合ってください)
(うん…あれ、メールきてる、誰だろ)
(あ、やばい)
(え、何が…って、何だこのメール馬鹿眼鏡)
(ごめんぶさいとか嘘、めちゃくちゃ可愛かった)
(…馬鹿)










我ながらロマンスに欠ける話だ!




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