私は御幸が好きだ。どれくらい好きかって、三度の飯より好き。三度っていうか、三度×一週間で二十一回ぐらいの飯より好き。そんな御幸とは、去年から同じクラスでウマが合って今では親友の倉持を介して仲良くなった。今さっきやった席替えで三人近くの席になって、正直嬉しくて発狂しそうだ。


「何にやにやしてんだよ」
「うっさい黙れ馬鹿もち」
「俺と近くの席になれて嬉しいとか」
「ねーわ」


前の席の倉持が椅子を倒してもたれかかってくるのを押し返す。隣の席の御幸は今、一年生ピッチャー二人のところに出張中らしい。


「あー、じゃあ御幸か」
「なっ…」
「はい、当たりー」
「いや、違うから!」
「ヒャハハ、今更俺に隠し事なんて無駄だからやめとけって」
「…馬鹿もち」


こいつのこういうところが、好きだったけど今は嫌い。人のことよく見てる。見すぎ。私のこと分かりすぎ。親友って肩書は伊達じゃないらしい。どうやら名実ともに倉持は私の親友だ。


「で、好きなんだろ?」
「…んー。多分」
「お前が多分って言うときは、絶対」
「何か今日の倉持、やだ」
「親友に向かって嫌とか言うな」
「親友とか自分で言ってるのが痛い…」
「さすがに傷つくわ」


勝手に傷ついている倉持は置いといて、さあ御幸だ。どうしよう倉持にばれちゃった。誰にも言わずに、このまま三人で楽しく過ごして終わり、っていう予定だったのに。私は別に御幸と付き合いたいわけじゃない。私は御幸も好きだけど倉持のことも大事だし、倉持は元ヤンのくせに気遣いが細やかすぎるから私と御幸が付き合い始めたりしたらちょっと私たちから距離を置いたりしてしまうんじゃないだろうか。付き合い始めたらなんておこがましい仮定かもしれないけど、それは絶対、嫌だ。御幸のことは好きだけど付き合いが長いのは倉持だし、失いたくない。だから私は御幸とは付き合わない。想いを伝えるつもりも、ない。


「みょうじ、何ぼーっとしてんだ?」
「あ。御幸お帰りー」
「倉持も呆けてるし」
「ごめんね、私が傷つけちゃった」
「泣くなよ洋ちゃん、俺が慰めてやるから」
「馬鹿、キメェよ」
「あ、復活した」


倉持が御幸にチョップをかます。御幸がそれを頭上で受け止める。私はその隙に御幸の脇をくすぐってみた。悶える御幸が面白くて、私の指は加速する。倉持も空いている手で加担する。


「ちょ、お前らっ…本当やめ、息できね…っ!」
「しょうがないなー」
「ヒャハ、勘弁してやんよ」
「え…?何で俺、許してもらった体なの…?」


御幸が息を切らしながら椅子に座る。


「あは、御幸顔真っ赤ーかわいー」
「楽しそうなみょうじのほうが可愛かったんだけど」
「へ」
「あ、みょうじも赤くなったーかわいー」
「馬鹿、からかわないでよ」
「マジなんだけど?本当みょうじ可愛い。好き」

軽いノリで好きとか言うな、馬鹿御幸。私の気持ちも知らないで。

どう返そうか考えていると、倉持が思い切り御幸を睨みつけた。


「おい御幸」
「何だよ倉持ー、顔怖いぜ?」
「お前みたいな奴になまえはやれねえよ」
「ええー…くださいよ、お父さん」
「ふざけてねえで、本気で告るんならやってもいいけど?」
「ちょ、ちょっと、倉持」
「なまえ、ちょっと黙ってろ。…オラ、どうすんだよ」


御幸は一瞬黙って、すっと私の手を取った。


「み、御幸?」


そのままぐっと引き寄せられて、顔が近付く。あー綺麗な顔、とか思っていると、その綺麗な顔で視界がいっぱいに埋まった。唇に生温かい感触。


「…へ」
「これが、俺の気持ち」
「御幸?」
「みょうじのこと、好きなんだけど…俺と付き合ってくんねえかな」
「…私も好き」


ほんと?と聞かれて、うんと頷くと、すげー嬉しい、と言って御幸がぎゅうっと抱きついてきた。重いよ、と言いながら私も、緩む口元を引き締められない。


「あ、でも、付き合うのはちょっと」
「え?!何で!」
「倉持が離れてっちゃうくらいだったら、付き合わない」
「はあ?」


今まで、呆れたように私たちのやり取りを見ていた倉持が眉をひそめる。


「訳わかんねえ。何で俺がお前から離れなきゃいけねえんだよ」
「え?いいの?気遣わないの?」
「いいに決まってんだろ。御幸に泣かされねえか、ちゃんと見てねえとだし」
「倉持…」
「それに、」


にやっと笑って私を見る。


「俺が離れてったら、結局お前を泣かすことになるんじゃねえの?」


ああ、やっぱり倉持は親友だ。私が御幸と付き合うことになってもそれは変わらない。倉持の気遣いは私の予想の上を行っていて、自分の存在が私の中でどれだけ大きな割合を占めているかってことまでちゃんと察してくれていた。それなら、私は。


「御幸」
「ん…うん?」
「付き合ってもいいよ」
「うわー上から目線」
「嫌いになった?」
「んー、そんなとこも可愛い」


本日二度目の、ぎゅう。倉持がにやにや笑いながら私を見る。


「なまえ、好きー」
「私も御幸好きー」
「でも俺のことも好きだろ?」
「よく分かってらっしゃる」


大好きな人2人に囲まれて、笑い合える私はもしかしてすごく幸せ者なのかもしれない。これからも、3人でいい。3人がいい。ずっと一緒に笑っていたい。そんなのは贅沢な願いでもしかして2人を縛り付けてしまうだけなのかもしれないけど、少なくとも私はそう思うのだ。



幸せの形なんて
(人それぞれ、なんだから。友情と恋愛、両方だってアリでしょう?)









うまく締まらなかった!
倉持と親友になりたいのは私だ



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