「始まりの、始まり。」の続きです。先にそちらをどうぞ。



俺は自分で言うのもなんだけど真面目に授業を聞いているほうだと思う。野球部だから寝てても多少多めに見るって先生はわりといるけど、俺はそれに甘んじることなく、講義内容はきっちりこなしたいタイプだ。御幸みたいに要領もよくないし、もともとの頭もそんなにいいほうではないから、沢村や降谷みたいに、後で苦労することになるのは目に見えてるし。

そんな俺でもぼーっとしたくなるときはある。お昼前でお腹が空いていたり、逆に満腹状態だったり。今はまさにそういうときで、せめて目は開けていようと思った俺は窓の外に視線を移した。


「おいしょー!」
「沢村うるせええ!」
「金丸もうるせーし!」
「誰のせいだ、誰の!」


どうやら沢村のクラスの体育だったらしい。今日も元気だな、あいつ。野球でもサッカーでもやることは変わらない、いつでも真っ直ぐ全力投球、って感じだ(あ、でも変化球も覚えたんだっけ。しかも元々ストレートが変化球みたいなもんだし)。

沢村の首根っこを掴んで怒鳴る金丸。二人を心配そうに見守る吉川さん。

の、隣には。


「っ…!」


みょうじさんがいた。心配そうな吉川さんの頭をなでなでと撫でている。
思わず息を飲んでしまい、隣の奴に、どうした川上?と小声で聞かれる。何でもない、と小さく笑って、窓の外に視線を戻す。


そっか、今更だけど同じクラスなんだった。御幸が変なこと言うから、過剰反応しちゃったし。


「は、春乃!ボールいってるよ!」


どこからか女子生徒の声がして、真っ直ぐ吉川さんのほうに飛んでくるボール。大きな目を見開く吉川さん。とっさに体は動かないみたいだ。

当たる。


そう思った瞬間、みょうじさんが身を翻した。吉川さんを守るように体から覆いかぶさる。


「なまえちゃん!大丈夫?」
「大丈夫。春乃こそ、大丈夫?怪我してない?」
「へ、へいき…!ごめんね、私が鈍くさいせいで…」
「もー…気にしなくていいから、泣かないの!」


泣きそうな吉川さんを逆に励ますみょうじさん。なんかもうどこまでもいい子だ。


「うおい、みょうじー!悪い!平気か?」


沢村が手を合わせながらみょうじさんのほうへダッシュ。って、沢村が蹴ったボールだったのかよ?そりゃ、痛いだろうな。


「派手な音したけど、大丈夫かよ?つか、吉川もっと周り見ろっつの」
「うぅ…ごめんなさい、金丸くん…」
「んー大丈夫。たいしたこと、」
「…なくないな」
「うおあ血ぃ出てんじゃん!やべえ!これやべえ!」
「女が顔に傷作ってんなよな…」
「これどっちかというと頭じゃない?」
「おでこ、かな?」
「何でもいいからさっさと保健室行ってこい!」


会話は鮮明には聞こえなかったけど、とりあえず「血が出てる」ということと、「保健室行ってこい」という金丸の言葉は聞こえた。
血?保健室?そんなに重傷だったのか?…まあ、沢村だからな。確かにかすり傷では済まないかも。…大丈夫、かな。













「失礼します…」


結局心配で来てしまった俺は、おずおずと中に入った。クーラーの効いた室内に置かれたソファに座って、吉川さんから消毒を受けているみょうじさんと目が合う。


「「か、川上先輩?!」」
「こ、こんにちは…」
「どうしたんですか?」
「あー…ちょっと先生に野暮用というか」


うーん、我ながら白々しい。慣れない演技のせいで声が上擦ってなかったらいいけど。


「頭、怪我したの?」


ソファに近づき、屈みこむ。教室の窓からじゃ全く見えなかった傷口が鮮明に見えた。血は結構出てるけど、ちょっと切っただけみたいだ。


「…ん、大丈夫そうだね」
「は、はい…」


その瞬間、がららっとドアが開いた。


「みょうじー!大丈夫かー?!」
「吉川、変なことしてねえだろうな」
「えっ、わ、私何か失敗した?!」
「…いい。俺が代わる」
「金丸器用だもんなー!」
「ぶ、不器用でごめんなさい…!」
「あ、いやそういうわけじゃねえんだけど!」
「いった!金丸くん痛いー」
「我慢しろ!傷残したらやべえだろうが。女なんだからよ」
「金丸、優しーい」
「金丸くん、優しい…」
「うるせーぞお前ら!」


ぎゃあぎゃあ。

沢村と金丸が入ってきた瞬間、静かだった保健室は喧騒に包まれた。

そして俺は、仲の良さそうな4人にちょっと疎外感。


「ていうかノリ先輩?!何でいるんすか?!」
「あれ、沢村地味に失礼じゃない?それ」
「す、すいやせん!」
「ま、もう帰るからさ。先生いないし」
「え、帰るんすか?」
「お大事にね、みょうじさん」


逃げるように部屋を出る。あのタイミングで入ってきた沢村と金丸に、ちょっと空気読め、と言いたい。勝手な先輩だ。



…別に、御幸に言われたから、ってわけじゃないけど。確かに俺、最近なんか変だよな…ゾノや白州にも言われたし。

「何か悩んどんか」
「…話、聞こうか」


二人の声がフラッシュバックする。


好き、とか。恋愛とか。野球ばっかりで関係ない生活を送ってきたから、今更よく分からないっていうのが本心だけど。


もっと、みょうじさんのことを知りたいって。そう思っているのはもう誤魔化せない。

多分、あのとき。声をかけてもらったとき。笑顔を向けてもらったときから、もう気になってた。女子に免疫がないとか、単純すぎるとか、自分でも思うけど。



倉持や御幸だったら、あの中に混ざっても自然なんだろうけど、俺はそういうのは得意じゃない。

はあ、と一つ、大きなため息をついた。



踏み込めない、
(…踏み込んで、いい?)









つつましやかなノリ先輩。
ちょっとずつ自覚してきてますね!(他人事)



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