最近、みょうじに元気がない。みょうじってのはまあ俺の好きなやつなわけで、だからその理由を俺は知って助けになりたいと思うのに、分からない。話していても悩みのようなことは何も言わないし、無理して笑ってやがる。聞いてみるにもタイミングが掴めない。


「どうかしたか?みょうじ」
「え?…何でもないよ?」


ぐずぐずしてたら哲に先越されちまうしよ。ったく、あいつはどこまでも頼れるキャプテンすぎんだよ。空気読め。それは俺がすべきことだろーが。まあ俺はみょうじの彼氏でもねーし、哲も俺がみょうじを好きってことは知らねーから仕方ねえけど。


「何でもなくはないだろう。最近様子がおかしいぞ」
「結城くん…鋭いなあ」


っだあ!そんくらい、俺だって気づいてるってんだよ!


「話ぐらいいつでも聞いてやれるぞ」
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えようかな…本当、つまんない話だけど。ごめんね」
「何故謝る?俺がしたくてしていることだ。気にするな」


そこで頭ぽん、はやべえだろ、アホ哲!これでみょうじがお前に惚れたりしたら一生恨むぞオラァ!















「…純」
「あ゙ァ?」
「何を悶々としてるんだ」
「なんでもねーよ、アホ哲!」
「?俺がお前に何かしたか」
「…まあ、してねーけどよ」


俺に直接何かしたわけではねーけど。結局朝から、昼休みになった今まで悶々を引きずっちまった。

俺たちのやりとりを、カフェオレを飲みながら聞いていた亮介が、じっと俺を見る。


「?何だよ、亮介」
「べつに?気になるんだったら純も聞けばいいのになーと思っただけ」
「!おま、なんで…」
「何の話だ、亮介」
「んー、なんでもないよ、哲」


亮介のやつ、なんで分かるんだよ。マジな話、こいつだけは敵に回したくねえわ。そんなことを考えていると、哲ががたんと席を立った。


「便所か?」
「いや…少し用事があってな」
「ああ…」


多分、なまえの話を聞いてやるんだろう。俺たち多忙な野球部は昼休みぐらいしかゆっくり時間取れねえからな。クソ、俺も知りてえ…!とか思っているうちに、哲は教室を出て行き、亮介と俺が残された。


「さすが、ドヘタレ純だよねー」
「お前、いつから気づいてたんだよ…」
「純、わかりやすいんだもん…まあ、わかりやすいのはみょうじさんも一緒か」
「あ?なんか言ったか?」


後半がよく聞き取れなかったが、この口振りからすると相当前から気づいていたらしい。怖すぎんぞこいつ。


「別にー?ま、頑張りなよ」
「お、おう…」














部活が終わって御幸の部屋に行くと、珍しく三年しかいなかった。俺、亮介、増子、宮内、楠木。かなり異色のメンツだ。床に寝そべって携帯をいじっていた亮介が、俺が入ってきたのを見て、開口一番に、


「純、ジュース買ってきて」
「はぁ?!なんで俺がパシリだよ」
「だって後輩いないし。ほら、さっさと行く」


でないと、バラすよ?いつもの二割増しの笑顔を浮かべた亮介に、俺はがっくりと頷いた。













「ったく、亮介のやつ…」


リクエストされたコーラのボタンをプッシュする。冷たい缶を握って、振ってやろうかと思案していると、


「い、伊佐敷くん?」
「っ…みょうじ?」


なんで、こいつがここに。状況を把握できずに混乱した俺の頭はろくに働くことなく、思わず口走っていた。


「お前…最近、何か悩んでんじゃねえのか?」


自分でもそりゃ思った。いきなりすぎんだろ、と。


「へっ?いや、べ別にな、なにも?」
「…いや、わかりやすすぎんだろお前」


はあ、とため息をついて、自動販売機の前の段差に腰を下ろす。いっそこの際、全部聞いてしまおう。まあ座れや、と手招きする。


「お邪魔します…」
「おー。…で?」
「えっ、」
「何か悩んでんなら言ってみろよ」
「…だって伊佐敷くん、部活終わったばっかでしょ?疲れてない?めんどくさくない?」


不安そうに見上げてくるなまえが可愛すぎて、ついつい頭をわしゃっとしたくなる衝動に駆られる(もちろん、実行には移さなかったがな!)。


「んなわけねえだろ、変な気遣うな。オラ、言えって」
「…ん、じゃあ言うけど…あたしね、好きな人がいるんだ」


あーやっぱり、そういう話か。

何となく予想はついていたが、実際聞くと思ったより堪える。とりあえず、心の中で暴れだそうとする嫉妬という感情を必死に抑えた。


「そいつのことで悩んでんのか?」
「う、うん。悩んでるっていうか、こう…その人が頑張ってても、側で支えてあげられないのが辛いし悔しい…というか」
「…どんな奴だよ」
「え」
「お前にそんな顔させてんのはどこのどいつだって聞いてんだ」


浮かない顔を見ていたくなくて、俯き加減に語調を荒げる。ったく、腹立つ。てめーがぐずぐずしてっと俺も踏ん切りつかねえだろーが!と、顔も名前も知らない相手を怒鳴りつけてみる。


「…その人はね、怖そうだけど実は優しくて、かっこよくて、時々可愛いんだー」
「はっ、そんな奴いんのかよ」


なまえの言う"その人"像はあまりに乙女心を掴みきった理想的なそれで、まるで少女漫画のヒーローじゃねえか、と心の中で笑う。


「うん、いるよ?…あたしの隣に」
「いやいねえだろ…って、はあ?」


軽く流しそうになったが、今こいつ、ものすごいことを口走ったんじゃないか。冷静になれ俺。言葉の意味をよく考えろ。


俺は、自惚れて、いいのか?


「今、お前の隣、俺しかいねえけど」
「…分かってるくせに、聞き返すのやめてよ」
「はっきり言ってくんねえと分かんねえよ」


ほら言えよ、と促す。なまえが恥ずかしそうに小さな唇で紡ぎ出した言葉を聞いた俺は、真っ赤な顔を見られないように、慌ててなまえを腕の中に閉じ込めておいた。



星の明るい夜に
(ちょ、伊佐敷くん…!)
(馬鹿、黙ってろ。俺は今喜びを噛み締めてんだ)










だいぶわかりづらいんですが、
貴子さんのことで悩んでました←
マネージャーさんは選手にとって
誰よりも近い女子ですのでね!
その距離感に妬くなまえさんでした。



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