あたしの彼氏は、2つ年上の、野球部の主将。

かっこいいし、優しいし、頼りになるし、部員からも慕われてるし、意外にノリがよくてちょっと天然入ってて可愛い一面もある。

あたしが言うのも何だけど、本当にあたしにはもったいないくらい素敵な人だ。


「なまえ、待たせたな。すまない」
「哲さんっ!全然待ってないですよ。哲さんこそ、疲れてるんだからそんなに急がなくてもいいのに」
「なまえが待ってるのに、俺がのんびりしてるわけにいかないだろう。ほら、行こう」


すっ、と自然に差し出された手に触れると、肉刺の感触がリアルに伝わってくる。


「哲さん、肉刺、痛くないですか」
「ん…ああ、平気だ。悪いな、嫌か?」


手を離そうとする哲さんを、慌てて静止する。


「嫌じゃないです!…ただ、頑張ってるんだなあ、って思っただけで」


あたしがそう言うと、哲さんは、黙ってあたしの頭に反対の手をぽん、と乗せた。

部活帰りのこの時間が、あたしの、1日の中の至福の時だ。






でも、悩みもある。


「哲さんがヤキモチ妬いてくれないんです!」
「…何の惚気だ、みょうじ」


悩みがあるときは、基本的に倉持先輩に相談する。本当は三年生のほうがいいんだろうけど、一年生の身ではちょっと話しかけづらいし、教室も遠い。


「男子と話してても何も言ってくれないし」
「そりゃ哲さんだからな。そこらの男とは器のデカさが違えんだよ」
「真剣に悩んでるんですけどー」
「知るか。束縛してほしいわけじゃねーだろ?」


束縛する哲さんなんて俺は嫌だぜ、と言って倉持先輩はヒャハハと笑う。

それはあたしだって嫌だけど。


「ちょっとぐらい妬いてほしいです」


ただでさえ、あたしにはもったいない彼氏なのに。本当に好きでいてくれるのかと、自信をなくすこともよくあるのに。

倉持先輩は少しの間のあと、わかったよ、しょうがねえな、とため息をついた。


「俺が哲さんにヤキモチ妬かせてやる」
「えっ…ほんとですか?」
「ヒャハッ、任せろ。今日の部活のあと、俺の言う通りにしろよ?」


倉持先輩の作戦に、あたしは耳を傾けた。














いつも通り野球部が終わるのを待っていたあたしの所にやってきたのは、哲さんではなく倉持先輩。

「ヒャハ、俺が先来ねーと意味ないかんな」
「よ、よろしくお願いします…」
「ま、任せとけ。とりあえず喋りながら哲さん待つぞ」









「もう、倉持先輩っ」
「ヒャハハ、冗談だって、馬鹿」
「ば、馬鹿じゃないです!失礼な!」
「わりいわりい」


倉持先輩があたしの頭を撫でる。


「なまえ?」
「あ、哲さん、お疲れっす」
「…何やってるんだ?倉持」
「ちょっとしたお喋りっすよ。俺ら、仲良しなんで。な、みょうじ」
「え、あ…はい。仲良しです」


作戦どおりの台詞を言うと、哲さんは少し眉をしかめた。


「帰るぞ、なまえ」


いつもは「帰ろう」なのに、今日はちょっと口調が乱暴だ。


「あ、待ってください、もうちょっと…」
「いいから」


哲さんが、あたしの手首を掴んで、強引に立たせた。そのままずんずんと歩き始める。


「あ、倉持先輩、さよなら」
「おう、またな。哲さんも、お疲れっした」


哲さんは無言で小さく手を挙げた。






帰り道、哲さんはしばらく無言だった。掴まれた手首がちょっと痛くなってきたころ、初めて口を開く。


「倉持と、何を話してたんだ?」
「あ…いえ、たいしたことじゃないです」
「いいから、言ってみろ」
「哲さんには関係ないことですよ」


これも、台詞どおり。哲さんの反応はというと、


「俺はお前の何だ?」
「え、か、彼氏…ですか?」
「それなのに、」


哲さんは足を止めて、あたしと向かい合った。


「倉持には話せて、俺には話せないことがあるのか?」


あれ、これって哲さん、もしかして。


「や、ヤキモチ…ですか?」
「…悪いか?」
「悪くないです!むしろ嬉しくて」
「?どういうことだ」


哲さんの目がきょとん、と丸くなる。


「哲さん、あたしが男子と話したりとかしても、あんまりうるさく言わないじゃないですか」
「え?」
「哲さんて、あたしにはもったいないくらい素敵だから。ファンの人だってたくさんいるし…本当にあたしのこと好きなのかなって、不安になっちゃって」
「なまえ…」


悪かった、と呟いて、哲さんはいつもみたいに頭を撫でてくれた。


「俺が好きなのはなまえだけだ」
「…哲さん」
「信じてくれるか?」


もちろん、答えはイエス。
答える代わりに目を閉じると、上から優しいキスが降ってきた。



君が好き
(倉持先輩、ありがとうございました!)
(今日の朝練の哲さん、俺にだけ厳しかったんだけど!)








キャプテン素敵。漢!



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