▼僕だけを見て


「おはようなまえ!」

朝、覚醒しきらず重たい身体を引きずって食堂へ向かうとすでに大勢が集まっていた。人に好かれる人間の周りには自ずと沢山の人があつまってくる。なまえと呼ばれた彼女は人に好かれる。夜の男子部屋で行われる誰が一番可愛いか論争にも必ず名前が上がっていた。彼女は可愛い。それでいて座学の成績もそこそこ良いし、とても気が利く。それに反して対人訓練や立体起動はまずまずの成績だった。しかしそれはクリスタと同様、守ってあげたくなると男の評価は良かった。

「あ、おはようベルトルト。」

「おはよう、なまえ。」

彼女は人の名前を覚えるのが得意だ。皆を名前で呼んでいるし、彼女も皆に名前で呼ばれている。104期の皆を知ってるし、104期の皆に知られている。そしておはようと微笑むのだ。ドキリと胸が鳴る。上手く発音できただろうか。そんなことを考えていると奥の席に座るライナーが僕を呼んだ。早く来いと言わんばかりに手招きをするので、仕方なく朝食を受け取りライナーの隣に座る。目の前にはアニ。残念ながらこの位置からでは彼女の顔を見ることはできなかった。

「じゃあまずはお前がならず者な。」

うんと頷けばそれが合図だった。彼女は何処だろう。ライナーに攻撃を仕掛けながら、それを悟られないように探す。そんな調子では攻撃に力が入らず、意図も簡単に阻止され、反撃を受けてしまう。

「おい、しっかりしろ。」

「あぁ、ごめん。」

少し遠くで尻餅をついている彼女を見つけた。顔が綻ぶのを我慢しながら剣を構え直す。やはり彼女は対人訓練は苦手なようだ。いつも傷を作っているし、ジャケットは泥まみれだ。少しは手加減してやれと相手の女を恨む。それでも彼女は笑顔でいた。彼女は笑顔が似合う。大きな目を細くして控えめに笑う。誰にでも平等に笑いかける。綺麗だと思うと同時に儚いとも思った。

「どうしてかなぁ。」

ふいに漏れた声は隣に座るライナーには聞こえていないようだ。肩まで伸びるブロンドの髪は緩く一つに束ねて、彼女は好物のスープを前に嬉しそうに微笑んでいた。僕はと言えばライナーの言葉に、適当に相槌をうちながら、パンを片手に彼女を見つめるだけ。最初はただ見つめているだけで良いと思った。でも今じゃ彼女の周りにできる輪の中に入りたいと思うのだ。いや、それだけじゃ物足りない。彼女を独り占めできたら良いのに、と。君にとって僕は、いつも大勢の中の一人だった。



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