▼今日も君は変わらない笑顔で


休暇はそんなに有り難くない。いつもより少し長めに寝て、ぶらぶらと町に出掛けて、そんな休みより訓練を受けているほうが幾分か良かった。そんな休みの日、相部屋の連中は全員町に行ってしまい一人きり。流石にそれもどうかと思い外に出ると、地面にしゃがみこんで丸くなっている背中を見つける。

「何してんだ?」

上から声をかければ、そいつはびくりと肩を揺らしてそのままの体勢で見上げた。俺の顔を見たとたん、なんだお前かと言う顔をしたので膝で背中を押してやった。

「ちょっと、何するのよジャン。」

「その失礼な顔をやめろ。」

「元からこういう顔よ。」

前に倒れこんだなまえは、手についた土を払いながら悪態をついた。前から思っていたが可愛くねぇやつ。「あぁそうだったな。」と嫌味たっぷりに言ってやって、視線を元の場所に戻す。そいつの視線の先には小さな花が咲いていた。

「私、この花が好きなの。小さくてね、踏まれても一生懸命咲いてるのよ。」

こいつはそんなことを言うタイプじゃ無くて、あぁそんな女の子見たいな考えも持ってるんだなと思うと同時に照れ隠しのように鼻で笑ってやる。

「ジャンの方が何倍も失礼だわ。」

「元からだ。」

いつもお互いに悪態をついて、でも不思議と居心地は良かった。男女の友情ってやつは実際、普通にあり得ることで、俺はミカサが好き、だし、こいつはこいつで好きな奴が居るらしい。ふとなまえの手元を見るとその小さな花が何本か握られていた。

「その花どうすんだよ。」

「前にね、こうやって花を見てたらマルコが今日のジャンみたいに声をかけてきたの。」

さっきまで笑っていた癖に、少し切なそうな表情をするなまえに、やっちまったかと思ったが、大丈夫だよと言わんばかりに苦しそうな笑顔を作って見せてきたので更に居た堪れなくなった。ちくしょう、お前ばっかり苦しい訳じゃねぇんだよ。

「この花が好きなのって言ったらね、マルコも、僕もこの花好きだよって言ってくれてね。」

言ってくれてと言う辺りは、この花が端から見れば雑草ともとられてしまうからだろうか。なまえにはこの花が花壇に咲き、人間に水を与えて貰っている花より何倍も綺麗に見えている。マルコにもきっとそう見えた筈だ。

「 だから、マルコにあげようと思って。」

えへへと小さく笑って言うなまえに、俺は顔を顰めた。あげるったって、どうやってあげるんだ。マルコはもう居ないんだ。なまえの消え入りそうな笑顔にぎゅっと胸が締め付けられた。何百と言う単位で死んでいく兵士にわざわざ墓なんて用意されない。一気に燃やされ、灰になる。どこの誰かもわかんねぇ骨に花なんてやってどうすんだ。

「なまえ、」

「マルコ喜んでくれるかな。」

次になまえの顔を見たときはボロボロと涙が溢れていた。ほら言わんこっちゃないと溜め息混じりに頭を撫でてやる。あの日じゃなければ、内地に行けていれば、今頃三人で笑い合えていたのだろうか。さっきより小さくなった背中をもう一度、膝で押してやって、「あぁ、きっと喜ぶさ。」と霞んだ目で曖昧な答えしか返せなかった。



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