▼あたたかい春に


ふと目が覚めると、まだ太陽は昇っていないようだった。まだ起きるには早すぎる。二度寝をしようかと目を瞑るが、どうもしっかりと覚醒してしまったようで、寝付けなかった。仕方がないので水でも飲もうとルームメイトを起こさないよう細心の注意を払いながら、部屋の扉を開ける。食堂まで行って帰ってくればまた少しは眠れるだろう。食堂まではそう遠くはない。暫く廊下を歩いて外に出る、そこからすぐ近くの建物。ガチャリと扉を開けると、薄い日の光に誰かの影か見えた。

「…誰か居るの?」

「えっ?」

声をかけるとその影も驚いたように振り返った。

「なんだ、ベルトルトか。」

「なんだって酷いなぁ。」

彼の手にもコップが握られていた。きっと同じ理由なのだろうと、彼の隣に立ち、水を汲む。ベルトルトは凄く背が高い。きっと104期の誰よりも。私はどちらかと言えば小さい方、だと思う。

「どうやったら背が伸びるの?」

「うーん、難しいね。」

「他人事だと思って…。」

実際、他人事なんだけど。はぁ、とひとつ溜め息をついて水を飲み干す。

「んじゃあ私は部屋に戻ろうかな。」

コップを綺麗に洗い流し、元の場所に戻そうとするとさりげなくベルトルトは私の手からコップを取り上げ、元の場所に戻してくれた。こいつは紳士か。ありがとうと告げ、なんだかちょっとだけ眠たくなってきた気がするので部屋に戻ろう。

「ちょっと待って!」

扉に手をかけると、ベルトルトが少し大きな声でそう言ったのでちょっとびっくりした。

「あぁ、ごめん。」

「どうしたの?」

「少し、話し相手になってくれない?眠れないんだ。」

私は眠たくなってきたって言うのに。まぁ、すぐに眠れる保証はないし、と椅子をひいた。ベルトルトも向かい側に腰かける。話し相手になってくれと言ったのはベルトルトなのに、それっきり口を開かず沈黙が続く。

「ベルトルト?」

「えっあ、ごめん。」

ぼんやりしている彼を呼び掛けると慌ててそう言った。何回謝るんだ。

「こんな風に二人っきりになるのは初めてだね。」

「うん、そうだね。」

「いつもベルトルトの隣にはライナーが居るし?」

「その言い方は…。」

彼は苦笑いして短い髪を触る。ふわふわしてるその髪に自分も手を伸ばしそうになるのをグッと堪えた。ベルトルトとライナー、それとアニは常に一緒に居ると思う。少なくとも私が見掛けるときはいつもそうだ。同郷ってこともあるからなんだろうけど。だからこんな風に二人っきりになるのは初めてだった。そもそも話自体、そんなにしたことがない。ベルトルトは誰にでも優しくて、怒ったとこなんて見たことないし、最初は気が弱いのかとも思ったけど全然そんなことない。笑った顔が素敵で、声も優しい声をしていて、それで。

「私、ベルトルトともっと仲良くなりたいな。」

「僕もそう思ってた。」

やんわりと笑う彼につられて私も笑う。「ほんと?」と問えば、うんと頷いた。

「気付いたら、なまえのこと目で追ってて。なまえって皆に優しいでしょ?それに凄く頑張ってて、それで、」

「ちょ、ちょっと!」

この人はいきなり何を言い出すんだ。自分の顔が真っ赤になる前に慌てて止める。

「ベルトルトの方が優しいでしょ?」

「そんなことないよ…。」

一瞬笑顔が消えた気がした。けれどすぐいつもの笑顔に戻って、なまえはこの間、サシャにパンあげてたよね。と彼は続ける。それはサシャが死にそうな顔をしてたからで。

「それはサシャが、」

そう言おうとした瞬間、ぐいっとベルトルトの顔が私のすぐ目の前に現れる。

「僕、なまえのことが好きみたいなんだ。」

「えっ…?」

「き、気にしないで!」

ベルトルトは慌てて離れて顔を真っ赤にする。たぶん、私も真っ赤になってると思う。

「私も!ベルトルトのこと好き、みたい。」



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