▼やさしい花びら


「「なまえ!!」」

その場に居た大勢が声をあげるのと、駆け出すのに何秒もかからなかった。




「暑い…。」

空から降り注ぐ太陽の光と、ジリジリと地面から照り返す熱に皆ぐったりと項垂れていた。夏が暑いのは当たり前で、いくら鍛えてるとは言え、暑さにはどうしようにも敵わなかった。こう暑いと上手く頭も働かないもので、近くの木陰の中に座り込む。

「アルミン、大丈夫?」

「ああ、なまえ。全然大丈夫だよ。」

「そう?よかった。」

そう言って僕の隣に座るなまえは、心なしかいつもより元気が無くて顔色が悪い気がする。なまえこそ、大丈夫?と聞けば、大丈夫だよ。と言ってやんわり笑ったのでそれ以上は何も言えなかった。次の訓練まではまだ少し時間がある。ここで暫く休んでいれば、少しは顔色も良くなるだろう。



「「なまえ!!」」

バタリと何かが倒れる音がして振り返った時には、もう皆が叫んだ後だった。サシャとペアを組んでいた愛美の顔色は、やはり木陰で休んでいた時と変わらず、まして良くなんてなってはいなかった。おそらく過労か熱中症だろうと誰かが言った。サシャが目の前の光景にオロオロとしながら僕のところにやってくる。

「なまえが!なまえが突然倒れたんです…!」

がっしりと僕の肩を掴んで必死に訴えてくる。そんなの見ればわかるよ、と思ったが大丈夫だよと促してなまえに駆け寄ると、ライナーがなまえを抱き抱えて医務室に連れて行く、と言った。僕もついて行くよと言えば無言で頷いてくれた。医務室に着くと、部屋には誰も居らず取り敢えずベッドになまえをおろす。

「じゃあ後は頼んだ。」

そうとだけ言ってライナーは医務室を出て行ってしまった。取り残された僕は、医務室の先生が帰ってくるのが先かなまえが目覚めるのが先か、一人ぼんやりとベッドの側にある椅子に座っていた。ライナーが軽々となまえを抱き抱えた時、ああ僕にはこんなに軽々と抱き抱えてあげることはできないだろうと思った。ライナーと僕では圧倒的な体格差がある。ライナーやベルトルト、ジャンなんかは背も高く筋力もあるのでそれは容易であろう。逆に僕やエレン、コニーなんかは背は低い方だ。加えて僕は対術が苦手で筋力は平均以下。なまえもどちらかと言えば小さい方なのだが、ふらふらと歩いていては格好がつかない。

「ん…アルミン…?」

どれぐらい時間が立ったのかは全く検討がつかなかったが、予想に反して医務室の先生は帰ってこず、先に愛美が目を覚ました。ベッドから起き上がりながら、まだ少し視界がぐらぐらするのか俯き気味に頭を押さえていた。

「なまえ、大丈夫?」

「アルミン…ごめん。」

「どうして謝るの?」

まだ熱を持った体に、目は少し潤んでいて、汗で髪がべっとりと肌にまとわりついていた。それを少し整えてやると申し訳なさそうに僕を見た。

「怒ってると、思って。」

「…ああ。怒ってるよ。」

なまえは僕がそう言うと、やっぱりといった顔をしてまた俯く。そういえば昔にもこんなことがあった。まだ巨人に街が支配されて居なかった頃、毎日のようにエレン、ミカサ、僕、そしてなまえは4人で壁の外の話をしていた。ミカサは余りいい顔をしていなかったけれど、まだ見ぬ壁の外は僕たちの想像を駆り立てていた。そんなある日、高熱が出ていると言うのにふらふらとした足取りでなまえがやってきた。それは一目で分かるもので、みんなが口々に今日は帰った方が良いと言うが、なまえは「大丈夫だよ。」と全く聞く耳を持たなかった。渋々いつものように本を広げていたら、今日のように突然倒れたのだ。

「言ってくれればいいのに。なまえはいつもそうだ。」

「ごめんなさい、アルミン…。」

「僕じゃ、頼りない?」

「そんなんじゃ…!」

少し大きな声出したなまえは、それが祟ったのがぐらりと前に倒れ込む。

「ごめん。僕、怒ってなんかいないから…。」

「私、アルミンみたいに頭が良くないしね、エレンやミカサみたいに強くもないからさ。いつか置いていかれちゃうんじゃないかなって。」

ぽつりぽつりと言葉を選びながら言って少し笑った。「弱いね、私。」そう言うなまえは泣いてるようにも見えた。ゆっくりとなまえを起き上がらせ、ぎゅっと抱き締める。

「どこにも置いていかないよ。」

「…ありがとう、アルミン。」



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