「なぁなぁ花子ちゃん!」
「おい花子!」
………。
あの、すいません。
「お二方、目ェ鬼畜です。」
「なんでこいつおんねん!意味わからんし!死ね!」
「あぁ!?黙れ貧乏人!お前が死ね!」
「うっさいわ元ヤン!貧乏人舐めんなはハゲ!眉毛!」
「ハゲてねぇよばかぁ!テメェこそその土臭い臭い如何にかしやがれ!」
飛び交う汚い罵倒の数々。
そしてその真ん中に居る私。
なんでこんなことになったんだ。
私はエリザさんの掃除を手伝っていただけだった。
何も悪くない。うん。
そんなときに、アーサーさんとトニーさんがやってきて、全く同じことを仰ったのです。
一緒に映画にいかないか、と。
しかも映画も場所も時間も同じ。なんたる奇跡。
トニーさんとアーサーさんがお互いがお互い嫌いという事は知っていたけど…。
「エリザ、こいつ借りてくぞ」
「かんにんな、エリザちゃん。」
「あ、はい」
借りてくぞって…ええええ!?
なんですか、喧嘩なら他所でやってくださいよ。
そんなことをいう間もなく、アーサーさんに担ぎ上げられ、廊下を渡った。
「うわ!花子ちゃんパンツみえてるー!」
「えっ、ちょ、トニーさ…」
「カリエドてめえぶっ殺す!」
アーサーさんはさすが紳士、というべきか…私の抱き方を変えてくれた。
その前に降ろしてくれたほうが嬉しいのですが、とか、言わないでおく。
「……あの、映画…」
いくんですか、と問いかける前にチケットを掴まされる。
「お、俺はその、アルに貰ってだな…勿体無いから、その、」
「この映画なんか面白そうやったから花子ちゃんと見たいなー思て。」
二人とも、さっきの鬼畜顔とは全く違う。
照れたように面を伏せるアーサーさんと、いつものニコニコした笑顔を浮かべるトニーさん。
全く違う種の表情に、少し驚く。
「お前は子分と行けばいいじゃねえか!」
「あぁ?!俺は花子ちゃんと行くことに意味あんねん!一緒に行く奴おらんのやったらエリザちゃんにでもやれや!」
また喧嘩を始める二人。
「………あの」
埒が明かないので、提案をしてみた。これが悪かったのだが。
「三人で行きませんか?」
*
「ああーほんまいややわー花子ちゃんととかめっちゃ嬉しいのに意味わからんわー」
「ああ同感だ俺も気分最悪だ。」
「あの、そういうのやめてもらえます?」
ところ代わって映画館。
全員私服に着替えて、外まで来た。
今は昼過ぎ、お昼は食べていない。
「と、とりあえずいきましょうよ。」
「せやな、さすが花子ちゃん。」
「お、おう。」
チケットを渡して中に入る。
中々いい場所を取れた。
トニーさんの買って来たポップコーンをいただいた時に上映が開始された。
内容は普通の悪の組織と戦う系。
アルさんが作ったらしいが、かなりのクオリティだ。
ヒーローがド派手に暴れて悪役が只管悪役。
ヒロインは巨乳で金髪。バッチメイク。
そして、当然のようにある…セックスのシーン。
「…う」
すごく…気まずいです…。
『あっ…あんっ』
『はぁはぁ…ジュディー…』
これで18禁が付かないのが不思議なくらいだ。
いや、私高校生なんですけど。
「ああーアルのやつ甘いな。もっとこう、女…」
ていうか、アーサーさんに至ってはシーンの批評をしている。
もっと足あげたほうがいいとか、こいつ下手だとか。
あの、紳士なアーサーさんは何処へ?
「ぬるいなぁ。やっぱりアルフレッドやからか。目隠しないと燃えへんな。あと巨乳すぎ」
トニーさんもそのシーンに文句があるようだ。
女の子はもっと貧乳でロリがいいとか、目隠しとか。
あの、変態発言やめてもらえますか。浮いてるんですが。
「なぁなぁ花子ちゃん、こいつと俺、どっちがかっこええ?」
こいつ、と指差したのは画面越しで情事を行っているヒーロー。
たしか、マイクだっけ。
「え…と、トニーさんのほうが…」
「マジで!?ほんまに!?嬉しいわぁ!」
いや、嬉しいのはわかったんで…その、声抑えてもらえます?浮いてます。
「な、なぁ花子…俺とこいつ、どっちがかっこいい?」
同じ事を聞いたのは、伏目がちなアーサーさん。
「あ、アーサーさんです…」
「だよなぁ?!」
よっしゃー、と小さくガッツポーズをするアーサーさん。
彼もまた、浮いている。
いやあのマジでやめてもらえますか。
私が二股かけてるみたいに見えてるらしいんですけど…。
「「じゃあ、俺とコイツどっちがかっこいい?!」」
まったく同時だった。
お互いを指差したアーサーさんとトニーさんはにらみ合っている。
「……えーと」
答える言葉が無い。
別に私はどちらも平均よりかなり上にかっこよくみえるし、中身の面でもアーサーさんは紳士的、トニーさんはいつも笑顔で癒されていいと思う。
「俺…ちゃうん?」
「別に、俺のほうがかっこいいっていって欲しいわけじゃ…」
「え、う、あ…」
鬼畜顔になりつつある二人を目にして私は顔を伏せた。
大きなモニターに映るマイクは、真っ黒なマントを身にまとった悪役と戦っていた。
「WOW!!花子じゃないか!」
突然だった。
男にしては甲高い、とてもテンションの高い綺麗な英語。
そう、この映画の監督。
「あ、アル…てめえ!」
「なんのようやねん!」
「だって、フィアンセが居るのに声をかけずにいられないだろ?」
だれがフィアンセだごるぁー、今日こそケリつけたるわー!、受けてたつんだぞっ☆
数々の言葉が飛び交う中、私はエンドロールを目の前にしてため息をついた。
「……お客さん、映画館の人、すいません。」
気がつけば私たち以外の人は既に部屋を出ていた。
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