アーサーさんと本田さんの前でのコスプレファッションショー。


「メイド!ニーソ!PAD長!」


ナイフ、ヘッドドレス、メイド服を装備した私。

お前誰だ、ってくらいに豹変した本田さん。

スカートは短い方がいいとか、どうとか、あまり聞きたくないことをぶつぶつ言うアーサーさん。


そんな歪な空間で私は本田さんの着せ替え人形になってしまっていた。

観光しに行った日本人かと言うくらいに一眼レフのシャッターを切りまくっている。


「…あの、本田さん…そろそろ…」


自重していただけると、と続くのだが、あえて言わなかったのは日本人の謙虚さ故なのだろうか。


「…ああ、すみません。ついテンションがあがってしまいました。」


けほけほ、と二つ咳払い。

先程までの、今にもアイドルオタクのオタ芸をしだしそうなテンションだった本田さんは、一気に慎ましやかで淑やかな大和男児へと早変わりした。

……うっかり自分の一言でロマンス(だったか、いつぞやにテレビでやっていた有名なオタ芸)をする本田さんを想像してしまったじゃないか。


「…どうかしたか?花子。」

「…いえ、何も…。」

「そうか?」


本田さんは、衣装を超が付くほどの早業で片付けて、お待たせしました、と“気を付け”をした。



「ああ、そういや何のようだったんだ?」


アーサーさんが思い出し高のように、本田さんに尋ねた。


「いえ、花子さんにコスプレをして戴くのが本題だったのですが、私の新刊が出ましたのでピーター君に。」

「ああ、いつも悪いな。…今回は敵が表紙なのか。」

「ええ。いつも“ぷにきゅあ”ばかりではなく、たまにはいいかと。それに敵のルークたんの過去も明かされますから。」


ぷにきゅあ、というのは本田さんの漫画のメイン五人組の様だ。

敵のルークたんとやらは、赤髪に頭と背に悪魔羽の生えた美少女だ。

萌え系漫画はイマイチ分からない。



「では、私もあまり長居出来ませんので…失礼致しますね。」


にこり、と微笑みその場を去った本田さん。


暫くしてから、窓の外から「本田先生!締め切り前に何をしているのですか!!」と甲高い担当編集さんを思わせる声が響いた。

漫画家さんは大変だなあ…。



「菊も大変そうだな。」


「そうですね…。」



風邪の気などすっかり吹き飛んだ私は、その場でくるりと一回転した。

フワリと揺れたスカートを見て、プリンセスみたいだな、とアーサーさんが呟いたのを聞き入れて、少し恥ずかしくなった。



「…あ、あとな、」


「…?」



彼は、照れたように頬をかきながら顔をそらして言った。



「…コスプレ、似合ってた…からな。…べ、別に褒めてねえけど…」



…アーサーさん。


私は好きでコスプレしたけではないので、すごく複雑な気分なんですけども…。



「ありがとうございます。」




自分の中で一番柔らかい笑顔で、アーサーさんを見た。



アーサーさんの照れたような赤い顔が可愛かった。





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