…ん、
やけに寝心地のいいベッド。
ふかふかしていて、薔薇の匂いがする。
胸元は少し苦しく、息がしづらい。
…そして、響くカメラのシャッター音。
「うわああああああああ!!!」
目覚めたは、アーサーさんの部屋。
胸元には安眠中のアーサーさん(私が上体を起こしたのでいまは足の上。熟睡している。)
遠く一定距離から高そうな一眼レフを構えハアハアしながら写真を撮る、本田さん。
「おはようございます、花子さん。」
「い、いや…本田…さん?」
何事もなかったかのように、優しい笑顔。
低い声で挨拶をされた。
「な、なんで…」
「いえ…まさかこんなに早くメイドと主の一線を越えて戴けるとは…。新刊のネタはこれで決まりですね。メイドと主、秘密の花園――男性向けですしアーサーさんは女体化でもおいしいかもしれませんね。“べ、別にお前のために看病してあげたんじゃないんだからな!”キメゼリフはこれですね」
「…なんのはなしですか。」
つらつらつら、と新刊とやらの内容を並べる本田さん。
彼、出会い頭は普通の淑やかな男性だったのに…。
いまや自重しないオタクじゃないですか…。
「…あの、なんの用ですか?アーサーさんまだ寝てますので、待合室に…」
「いえ、むしろ先ほどの状態に戻っていただけた方が私は嬉しいです。花子さんの胸が枕なんてなんて!けしからん!もっとやれ!ってトコですよ。寧ろ私にして…」
「いただけませんからね。」
「ですよねー」
で、何の用か、と再び聞くと、私に用があるそうだ。
本田さんは大きな鞄を持って、これです。と言ったが私には何のことかさっぱり分からない。
まあまあ、とアーサーさんが突っ伏すベッドから脱出し、執務室へと戻った。
ティーカップがまだ置いたままになっている。
後で直さなきゃな…。
「アーサーさんに屋敷の使用許可はいただいてます。まずはこれを。」
ある所で止まると、本田さんは大きな鞄から服を取り出した。
それは、何度か見たことのあるセーラー服。
腰の位置が高く、腕には“団長”と書かれた赤い腕章。
そして、黄色いリボンつきのカチューシャ。
ここまで言えば一部の方はお分かりになるだろう。
「ハルヒコスをお願いします。」
「…うわ」
私は見ませんから、惜しいですが、と執務室から本田さんは出た。
残されたのは私とセーラー服。
着るしかないか、とメイド服のエプロンのリボンを解いた。
「…。」
下着姿になったところで再びセーラー服と対峙する。
水色と白に少しの赤。
セーラー服を着るのは、中学校以来だ。
スカートを履いてから、上のセーラーを着る。
カチューシャもつけたところで、私は本田さんを呼んだ。
「本田さん、着ましたよ。」
ドアが開いて再び本田さんが執務室へ入る。
私を旋毛から爪先まで見て、再び顔と全身をみた。
その後に、一眼レフを構えて、私を至る場所から撮った。
「はあはあ花子さんそれは反則ですよウィッグいらずで完コスですねすてき!」
パシャパシャ、とカメラのフラッシュに当てられる。
「花子さんもっとツンな感じで!」
「ツン…?」
「そうですよくお分かりになってますね、もっと視線を!」
「…。」
このあと、しばらくモデル私、カメラマン本田さんの写真撮影会が行われることになる。
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