飛ばされたアーサーさんは、10秒ほど動かなかった。
アルさんは、何事もなかったかのように、私に新しい映画の話を始めた。
「あ、アーサーさんは…」
「ああ!大丈夫だよ!アーサーはタフだからね!」
「いや、貴方程じゃないかと…ていうか動きませんよ…あれ…」
ご主人さまを“あれ”で定義する私もどうかと思うが、アルさんもアルさんだ。
だって、アーサーさん、まさか、死ん…!
じい、と見ていると、指先が動いて、拳を作った。
そうするが早いか、アーサーさんはアルさんの肩をガッと掴んだ。
「あ、アル、てめぇ…!(イイトコだったのによ!)」
「あーまったく君は昔っから最低だね!エロ!変態!」
「ちげーよばかあ!俺は、あ、あいつが彼氏って言ったから動揺しだけだ!」
「What?まったくー君は相変わらず嘘が下手だね!」
「嘘じゃねえよ!」
日本の言語ではないそれで話す二人。
さすが本場のアメリカ人とイギリス人、
字幕版の映画みたいにつらつら並ぶ英単語。
日本人の耳に聞き取れぬその言葉は私にしてみれば余りに耳障りだった。
えーっとー…ゆーあー…
必死に脳内で英和に訳すが、次から次へと飛び出る単語や文章に脳が追い付かなくなってくる。
「大体、君はいつもそうだろ?俺だって花子のこと好きなんだぞ!」
「はあ?!てんめ、花子は俺のだばかあ!」
「なに言ってるんだい?花子は君のじゃないんだぞ!人権奪うなんて最低だ!Fuck!告訴するぞ!」
えっと、ノット、ユア、
あ、今ファックって聞こえた!
何だろ、切羽詰まってるし喧嘩かな?
お互いの眉間にシワがよる。
チラッチラ私の方を向いてくるのが少々気になるのだが、そのへんをうまいことスルーして二人の英会話を眺めた。
「お前はアイツと関係ねえだろ!」
「No!!彼女は俺のヒロインでフィアンセさ!」
…ヒロイン?Sheって聞こえるし…もしかして、私の話かなあ?
いや、でもな…。
英語なんて日本人だから覚えなくていいやなんて思って勉強していなかったから、簡単な単語と文章しか分からない。
「つーかなんで勝手にウチ入ってんだよ!」
「ライナが入れてくれたぞ!それともなんだい?かわいい弟を追い出そうとでも?」
「うっ…!て、てめー都合いいときだけ弟ぶんのやめろよな!意味わかんねーんだよばかあ!」
「Oh I'm sorry!」
「ぜってー悪いとか思ってねえよな?」
「なんてばれたんだい?」
DDDDDDDと笑い出すアルさん。
やっぱり口喧嘩は、アルフレッドさんの方が何枚か上手の様で、アーサーさんはアルフレッドさんにバカにされる度に言葉に詰まっているようだった。
「ていうか、君は俺のヒロインの花子に何をしようとしてたんだい?」
「だから何度言えば分かるんだよ!花子が彼氏って間違えて動揺しちまっただけだ、ってさっきから言ってんだろうがばかあ!」
「そうは見えなかったぞ!」
「てめ…!」
また、どたばたと部屋の中を走り回り、殴り会うアーサーさんとアルさん。
そんな二人を見ていると、なんだか頭がフラリと180度揺れて、私の頭は枕に落ちた。
ふかふかの枕が私の頭のしたで低反発した。
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