ながーい廊下をわたり、着いた先は高級そうな飾りが施された扉。
ごくり、と唾をのんだ。
こんこん、失礼します、アーサーさん、エリザです。
エリザさんは慣れたようにドアに問いかけた。
中から、おう、とぶっきらぼうな返事が聞こえてきて、エリザさんはドアを押した。
「アーサーさん、例の…」
「ああ、そうか。」
書類にペンを走らせる手を止めて立ち上がり、私に近づいてきた男性、おそらく、アーサーさん。
「お前が、花子だっけか?」
「え、えっと」
お父さん、ほんとにイケメンさんでした。
ごめんなさい、お父さんの何十倍もかっこいい。
緊張して声が出ない。
「山田花子ちゃんです。彼女は昨日つれてこられて、緊張してるのです。」
「ああ、家が大変だと聞いた。大丈夫か?」
大丈夫なら此処にはいません、とは言えないので日本人の必殺技の曖昧な返事を返した。
「俺はアーサー・カークランド。お前の、主だ。」
「は、はい。」
微かに微笑んだアーサーさんはなんかもう、芸能人のごとくだった。
「では私はこれで。」
「えっ」
エリザさんが退室したら私には頼れる人がいない。
不安の眼差しを向けたら、エリザさんに微笑まれた。
大丈夫よ、アーサーさんは悪い方ではないもの。
その意味がうかがえた。
「あ、あの…」
「あ、ああそうだ。お前には主に俺の世話をしてもらう。前のヤツが家の事情で国に帰っちまったからな」
国、というと外国人だろうか。
そういえば、アーサーさんもエリザさんも日本人には見えない。
肌は透けるように白いし、髪の糸も輝くように細い。
「あ、あの、アーサーさんもエリザさんも海外の方ですよね?」
「ああ。俺はイギリス人、あいつはハンガリー人だ。なんだ、外国人嫌いなのか?」
「い、いえ。日本の人ではなかったので…」
「ああそうか。そういや日本人は菊ぐらいだな。」
菊、男性か女性かいまいち分かりにくい名前だ。
「ん、ああ。菊…本田菊。その服デザインしたやつだ。」
ああ、だから“さすが本田さん”なのか。
「ま、みんな日本語しゃべれるから安心しろよ。仕事はまだねぇからまずは慣れろ。」
お屋敷のメイドというと意地悪なメイド長と鬼畜な主を想像していたが、メイドのエリザさんも主のアーサーさんもいい人っぽい。
お父さん、私は元気です。
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