「…ごちそうさまでした。」
「…おう」
低いテーブルに、カップを置いて、綺麗な白い浅いお皿に盛られたお菓子へ手を伸ばす。
いつかにフランシスさんにケーキを作ってもらったことがあるのだが、シェフのものと比べたら悪いかもしれないが…。
味が少々(いやかなり)、ひどい。
なんか、しょっぱいし…時々黒い謎の物体が現れるし…。
それでもやっぱり悪いと思ってニコニコしていると、アーサーさんは、トニーーさんもびっくりな綺麗な笑顔を浮かべた。
う、かっこいいな…!!!
じろじろ、と見すぎていたのか、アーサーさんは何かをリセットするかのようにティーカップに指を絡めた。
指綺麗だなー。
私より綺麗なんじゃないかなー。
なんていうか…爪やばいよ綺麗だ…。
「な、なんだよ…ジロジロ見んなよ…!」
「あ、すいません。手が綺麗なので…」
アーサーさんは、そうかよ、とつぶやいて目線をそらした。
照れてるのかな…なんか、かわいいな!
「お、おまえの…も、綺麗だと思うけど、な。」
「そうですかね?洗物とかしてると荒れるんですよねー…」
これが女子高生の手か。
みんな姫系だのなんだの言って、爪にキラキラした飾りをつけてるんじゃないだろうか。
私のを見てみろ。
熟年主婦程じゃないけれど、新妻のような少し荒れた手。
ちゃんと手入れしていた爪もいつしか忘れていたし、なんだか…
「主婦になったみたいですね…私…」
「しゅ、主婦!?」
主婦、主婦、細君、妻、嫁。
アーサーさんはなんだかそんな言葉をつぶやき始めた。
頭を抱え、一人でなにか考え事をしているようだ。
「あ、アーサーさん?」
「嫁かぁ、嫁…妻…主婦…マミー…」
「マミーってお母さんじゃないですか?」
「ああ…うあ…嫁…いいな…!!」
「なんのことですか。」
アーサーさんはにやにや笑ってみたり、いやいや、と首を振って冷や汗を垂らしたり。
相変わらず忙しい人だな…。
嫁、といえば、イヴァンさんが私が社長夫人になるかもね、と言っていた。
そうかぁ…結婚かぁ…。
進路先は、ここでも大丈夫そうだし、将来は…まぁアーサーさんの会社が傾かない限りは安泰といえるだろう。
いつか家族みんなで暮らせるようになったら、私はここで働いて、お父さんとお母さんに親孝行してあげよう。
フランシスさんに料理を作ってもらって、
本田さんのコスプレにつきあって、
ギルさんの運転で皆で出かけて、
トニーさんとライナさんと庭で植物栽培のお手伝いをして、
アルさんと映画を見に行って、
シー君とライヴィスくんと公園で遊んで、
イヴァンさんの会社も見に行きたいな。
メイドの皆で服とか見に行きたいし。
「……おい!花子!花子!」
ハッ、とアーサーさんの声で現実へ帰ってきた。
私はいつの間にか別の世界へ行ってしまっていた様だ。
これから自分の頭が心配になってきたぞ、どうしよう。
「…ったく、どうしたんだ。熱で頭がクラクラすんのか?寝とけよ?」
「あ…はい。いや、色々考えてたんですよ。色々ね。
「まぁいいけど…。今日は仕事休めよ。俺のベットかしてやるよ」
…え?
「いや、え、ベッド?」
「え、な…あ、いや、その…」
なんか、恥ずかしいな…!!
アーサーさんが、毎日寝てるベッド、ベッド、ベッド…。
うわ、なんか熱上がってきた!!
「いいいいい、いやそのあれだよほら!変な意味じゃなくてだな!お、おれのベッドのほうが寝心地がいいだろうしな!!な!?」
「そそそうですよね!ですよねー!ですよねー!?じゃ、じゃあお借りしまっす!!」
お互い真っ赤、だ、だって!!
なんだこれ、なんなんだ。
私は頭おかしくなったのか。
ああ、全部熱のせいだよ!!!
「じゃ、じゃあ、いくぞ!!」
「は、はい!」
何故かアーサーさんに手を握られて、ベッドのある私室へ向かった。
なんだこれ、あれか。あれなのか。
そ、その、恋人同士が…はじめて…その、そういうことをするような…
そんなわけじゃないけどっ!
何もしないけど!
ナニもしないけど!
あああ、ダメだ。
熱があがってきた!!!
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