「ッん…」



見慣れない天井、

ズキズキと痛む頭、

お腹に無造作に掛けられたシーツ、


私を見下ろす、アーサーさん。



「おい、気が付いたか?」

「え…」


心配そうな表情をしたアーサーさん。

彼は、私の目覚め立ての虚ろな眼にも確りと映っている。


「えっ…と、わた、し…。」


何があったんだっけ…。

たしか、アーサーさんを起こしに来た筈じゃ…。

「風邪引いてんのに仕事すんなばかぁ!」

「えっとは、はい、すいませ…」

「べっ…別に心配なんかしてねえからな!!俺のためだぞ?!」

「…何がアーサーさんの為になるのかは存しませんけど…。」


取り敢えず、のっそりと上体をお越し、目をこする。

アーサーさんとバッチリと目が合って、何だか恥ずかしくなった。

だけど、不意に視線を反らされると、すこし傷つくんですけど。


「あ、あの、今…何時ですか?」

「今?…10時だな。」


…10時?!


…え、じゃあ私3時間寝てたの?!

うわ、うわ、うわ、うわーあ…。

な、なんか恥ずかしッ…!!


「な、あ、あれだ、ぞ?!べつに、寝顔可愛いな、とか思ってねえし、その、なんつーか、その、よ、お、起こすのが、悪いと思っただけなんだからなッ!!」

「…?…は、はあ。ありがとうございました…?」


お礼を言って、部屋から出ようと、立ち上がる。



が、私の腕はアーサーさんの意外と太いそれに捕まれてしまった。


1センチも動かない。



「…あ、あの、私…。」


「え、あ、いや、その、あ、む、むり、するの、は、」



無理と言われても仕事だし、雇われてるし。


雇い主が心配してくれるのはいいことだろうが、私は仕事をしなければ。



「え、っと…。あの、だから、私、仕事…」


「い、いや!寝てろ!」

「ヤです!むりです!」

「(ヤとかかわいいな…!)主命令だ!」



その言葉はずるいんじゃないか。

でも、逆らうわけにも行かないので、私はもうすこしだけ失礼することにした。


「ほ、ほら。紅茶。」


「…あ…す、すいません。」


スッときれいな指のからめられているアーサーさんの持つものと同じ柄の紅茶のカップを受け取った。

中身は、ミルクティーで、私の好きな甘めの味付けだった。


ほんのりと溶けたミルクと砂糖の味は、とても暖かかった。

アーサーさんのはアールグレイのストレートティーだ。


「…。」



こちこち、と金縁の時計の秒針の音が心地よかった。









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