公園の水道前、
「うえっ、ひっく、うわあん…っ」
盛大に転けたシーくんの汚れた傷口を水で洗い、絆創膏を張り付けたあとも、シーくんの涙は止まらない。
しばらくは私とライヴィスくんでなだめ続けていた。
だが、中々泣き止まず、どうしようか、と考えていると、カラフルな風船をもったお兄さんを見つけた。
モデルハウスが近くにあり、そこの宣伝で配っているよう。
私はシーくんたちに、ちょっと待ってて、といい置いて、風船を貰いに行った。
シーくんのセーラー服と同じスカイブルーの大きな風船。
お兄さんからそれを受け取って、シーくんの元へ駆け寄った。
「はい、どうぞ!」
「…っ…あ、りがと…ですよ」
涙で濡れた大きな目を無理矢理笑わせたような笑みを浮かべて、シーくんはそれを手にとった。
だが、するりとそれはシーくんの小さな手を潜り抜けて、ふわりと浮かび上がったのだ。
「わっ」
急いで手を伸ばすが、届かない。
ジャンプをしてもかするばかり。
それはだんだんと空へ向かって行く。
運良く、風が吹いて木に引っ掛かったが、届きそうにない。
肩車をすれば届くかもしれないが、私にはシーくんを肩車できるような力すらないのだ。
「どうしよう…。」
木で下手にいじって割れたら嫌だし、また貰いに行くのもなんだか悪い気がする。
でも手は届かないし…。
色んな事を考えて策を練る。
だが、やはりどれもピンとこないのだ。
そんな時だった。
「あれえ?ライヴィス?」
少し高めな男性の声。
ライヴィスさんのひきつった顔、その視線の先にあったのは…、
「ふふふ、どうしたの?」
どこかで見たことのあるような、背の高い男性。
「え…っと、」
「ああ、花子ちゃんだよね、ふふふ、話は聞いてるよ。」
ニコニコ笑顔が素敵な男性。
トニーさんがキラキラした明るい笑顔だとすれば、この方は向日葵みたいに優しい笑顔。
「はじめまして、イヴァンだよ。アーサーくんの傘下の会社の社長なんだ。彼…ライヴィスも社員なんだよ。」
い、イヴァン?
なんか最近その名前を聞いたような…
記憶の引き出しをひっくりがえす。
………。
「あっ!」
ナターシャちゃんのお兄さん!
思い出したぞ、ギルさんの言っていたイヴァンさんだ。
なんだったか、コルコルの人だ。
「話は聞いてます、ナターシャちゃんのお兄さんですよね?」
ナターシャちゃんの名前を出した途端にピシッと固まってしまった。
あ、あるぇ?
「な、ナターシャには僕と会った、って言わないでね…?」
「え、何でですか?」
イヴァンさんは笑みから一変、恐怖に怯えた表情をした。
ガクガクと震え、顔は青い。
それをみたライヴィスくんが、脅えてしまうのだ。
なんだ、この連鎖は。
いや、ライヴィスくんはイヴァンさんが来た辺りからガクガク怯えていたな…。
「…あっ!じゃあ、あの風船とってもらえませんか?!」
イヴァンさんはとても背が高いし、きっとちょっと背伸びしただけで届きそうだ。
「え、いいけど…」
「やった!」
イヴァンさんは少し踵をあげて、紐の端を掴んだ。
その後しゃがみこんでシーくんに風船を手渡し、頭を撫でた。
ライヴィスくんはその行動ひとつひとつにびくびくしていた。
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