時計の針はカチリ、と動いて9時を指した。
「ギルさーん」
幼児事件が終わった次の日、私はフランシスさんに買い物を頼まれていた。
食材ではなく、シャンプーやノートなどの日用品。
みんな屋敷の人たちの所望している物らしい。
家で仕事してる人たちはあまり外に出ないから、こうやって定期的に買いに行く、とフランシスさんは言った。
別に出てもいいんだけど湾ちゃん曰く「めんどくさい」んだとか。
まあ誰かがやってくれるなら…ねえ。
…つまり私はパシりですか?
「なんだよ」
廊下で一人楽しすぎるとか歌ってるギルさんを捕まえて、車を出してもらう事にした。
大荷物になるだろうし、車がないと何かと不便だ。
嫌がりながらも思ったよりあっさりと出してくれた。
「…お前は俺の友達かっての」
「いいじゃねーかいこーぜギルちゃん」
「ふざけんなよ」
「顔怖いです。」
そんな会話をしながらついたのは某デパート。
百均や薬局、雑貨屋まで何でもある。
ギルさんを引っ張り中へと入った。
スーツのギルさんはまだしもメイド服な私は目立つがこの際気にしてなんか居られない。
「ギルさん、ノートと…飴とマシュマロと…ファイルです。」
「…何で俺が籠持ちなんだよ」
「力仕事はかっこいいギルさんにしていただきたいです。」
「…ははははは!しかたねえな!かっこいいギルベルトさまが持ってやる!」
「高笑いはやめてくださいね。」
ギルさんはおだてられるのが好きらしい。
籠にお目当てのものを放り込み、レジに持っていく。
ギルさんは自分でミルク味のクッキーを買っていた。
私もほしいと言うと文句を言いながら買ってくれた。
抹茶味だった。
だってお金ないんだもん。
「ありがとうございます、ギルさん。超かっこいいです。」
「ケセセ!当たり前だ!」
若干ウザい感じだが、まあ我慢して薬局につれていく。
何を買うのか、とメモを見た。
シャンプーと胃薬と…
「…ギルさん、買ってきて。」
「あ?何でだよお前行けよ。」
「ヤだよ女の子にこんなの買わせんな。」
お使いメモをギルさんに渡して、読ませる。
「えー…シャンプー胃薬……ゴム。」
微かにああ、と呟いて私を見た。
それだけ言うとそういうことか、と頭を何故か撫で、それらを買ってきてくれた。
実はギルさんはとても優しいお兄さんじゃないかと思ったが、「お前これぐらい買えないなんて思ったよりガキだなケセセセ!」と言われたので膝かっくんしてやった。
認めて損した。
「次は本屋ですよ。」
「おう」
メモにある本をギルさんに持たせていく。
この店には都合悪く、籠がなかったのだ。
「えーハリポタに広辞苑…。」
「重い本ばっかじゃねえか!」
こち亀全巻とか頼んだの誰だ。
ギルさんの腕にずっしりと体重をかける新品の本たち。
さすがにかわいそうになったので、持ちましょうか、と聞いたら、いいと言われた。
つくづく彼はよく分からないところがある。
「よし、これで終わりですね!」
「疲れたぜー」
車に購入したものを積み込み、助手席に座った。
日本の車じゃないようで左ハンドルだ。
「ギルさんお疲れ様でした。」
「誰かさんのお陰でとんだパシりになっちまったぜー」
あ、そうだ。
「ギルさん。」
「ん?」
ギルさんの首に腕を回す。
ギルさんは柄にもなく焦ってハンドルを離しかけたが、握り直して横目で私を見た。
「プレゼントです!」
私はソレをギルさんの首につけた。
シルバーの十字架のネックレス。
トイレにいったときに抽選を見つけた。
それは1000円以上のレシートでできる抽選で、薬局と本屋のレシートが1000円以上だったのでやってみた。
そしたらそのネックレスが当たったのだ。
男性用だしギルさんに似合いそうだったから…。
「やっぱり似合うぜ!」
「……ありがとな」
お前は俺の友達か、と言われると思ったが素直に礼をするギルさんを見て少し仲良くなれたかな、と思った。
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