「とりあえずコイツは貰ってくぞ、主命令だ。」
「…えらそうに命令しよってむかつくやっちゃな…まぁええわ、ありがとうな!花子ちゃん!」
「は、はぁ…。」
アーサーさんに抱きかかえられて執務室へと向かう。
がちゃり、と開いた先は私が片付ける途中だった執務室。
赤い表紙の謎の魔術書は開いたまま床と仲良しこよしだ。
魔方陣は微かに光を帯びていた。
執務室の中央にある机と椅子。
片隅には書類が重ねられていて、アーサーさんのサインがされているものとされていないものがあった。
アーサーさんは椅子に座り、私を膝の上に乗せて頭をなでてくれた。
見上げると、少し顔の赤いアーサーさんがいる。
「あの、アーサーさん。」
そうだ、アレを言わなくては。
私がアーサーさんの帰りを待ち望んでいたのはお帰りなさいませご主人様のためじゃない。
「アーサーさん。」
「ん?なんだ。」
「体元に戻してください。」
この体じゃ仕事も出来ないし何かと不便だし。
そういうと、アーサーさんは滅茶苦茶残念そうな顔をして、私を見下ろした。
「…なんでそんな顔するんですか。」
「いや…ん、わかった。しかたねえな!戻してやるよ!言っとくけど俺のためだからな!?お前のためじゃ…」
「いや、貴方のためならなんでそんな不満そうな顔を…!?」
ここに本田さんが居たならツンデレGJ!!!と親指をぐっと立てているのかもしれない。
アーサーさんは私を机に座らせて、落ちている魔術書を手に取った。
思ったんですけど…その本何処から輸入してきたんですか、イギリスからですか。
微かな光を帯びていた魔術書はアーサーさんが触れると光が広がり、アーサーさんに影を落とした。
「look at my eyes. I am a husband. His name is Arthur Kirkland. Hear my prayer. 」
指を私に振りかざすと、私は光をまとい宙に浮いた。
四肢の痒さに耐えると、光は消えて私の足は地に落ちた。
視点はアーサーさんの胸元。
元の身長に戻ったようだ。
…にしてもアーサーさんの顔はにやけて真っ赤だし、なんでか体は窮屈だ…ん?
「…きゃっ」
その私の格好はエロアニメのヒロインか、とでも突っ込みたくなるようなものだった。
トニーさんに動きにくいからときがえさせられたのだが、それが私の大きさに合わず、布がはち切れていた。
何故かトニーさんの持っていた幼女用の下着は床に落ち、小さな衣服は私の体に破られスカートは股下5センチ、胸元ははだけ肩が露出している。
……あの、アーサーさん。によによすんのやめてもらえませんか。
「あのー…ガン見して鼻血だらだら垂らしてによによすんのやめていただければ嬉しいです…。」
いくらご主人様といえど…。
こういうのは…ねぇ?
私だって高校生、恥ずかしいものですよ。
「ご主人様ー?アーサーさまー?」
冗談半分にそうアーサーさんに告げると、アーサーさんは目を見開いて顔をさらに真っ赤にし、後ろを向いた。
あれ?とアーサーさんに近づこうとすると上ずった声でくるな、といわれた。
ご主人様の仰せのままに、とぴたりと其処に立ち止まり、自分の無様な格好を見下ろした。
彼はトイレへと駆けていき、私は棒立ち。
なんだ、トイレに行きたかったんですね。じゃあ言ってくれればいいものを…。
とりあえずこの無様な格好をどうにかしたい。
フランシスさんが入ってくればアッーなことになりかねない。
アーサーさんの寝室からシーツを借りて其れを身にまとい、メイド室への廊下を走った。
視線は痛かったけど、メイド室へ無事走りぬけ、エリザさんたちにメイド服をいただいた。
エリザさんの一眼レフが痛いほどにシャッター音を響かせていたのは聞かないことにしたかった。
一方その頃ご主人様。
(〜ッ!アレは反則だろアレはぁああ!!…)
トイレに駆け込み『事』を済ませ、執務室でもだえていた。
あんな姿で、ご主人様…ご主人様…アーサーさま…
「…あーやばい。」
彼は再びトイレへ駆け込んだ。
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