ある日のこと。


「花子ちゃーん、ちょっと」


長ったらしい廊下を歩いていたら、フランシスさんに声をかけられた。

いつもの変態臭い声とは、少し違う。

相変わらずウインクは飛ばしてるけど。


「なんですか?」


コックさんの格好をしたフランシスさんは少しばかりかっこいい。

いや、元々かっこいい人なんだけど、変態臭いから見えないのだ。もったいない。


実はね、と告げられた内容は思いもよらぬものだった。

私に聞かなくてもいいでしょう、みたいな。

いや、頼む相手が間違ってんじゃなかろうか。


「…もう一度言って貰えます?」

「ん、肉じゃがの作り方、教えて」

「に、肉じゃがの作り方…ですか。」


聞かれたのは、まさかまさかの…肉じゃがの作り方。

一般家庭の夕食。

いやいや、なんで私。
そう聞くと、花子ちゃんが一番身近な日本人だから、らしい。


「な、なんでまた肉じゃがなんですか?」

「アーサーの野郎が突然肉じゃが食いたいとか言ってね、お兄さん大体の料理は作れるけど肉じゃがは作ったことないんだよ」


まあ、屋敷のコックさんが肉じゃがなんて聞いたことないよね…。

アーサーさんも面倒なことを…。

何しに肉じゃがなんて。フランシスさんの料理を毎日食べて肥えた舌にはあわないかもしれない。


「…わかりました。」

「さすが花子ちゃん!」


頼まれたことだしね、と私はそれを了承した。

こうして、私のフランシスさんへの肉じゃが講座が始まったのだ。


「えーと、ジャガイモと牛肉を…」

「おー」


ふむふむ、とフランシスさんはメモを取り、私は作りながらフランシスさんにコツを伝える。

私の説明で解るのかは定かではないが、ちょこちょこ詳しく聞いてくるので分かってるんだと思う。


「……てなわけで、完成です。」


お椀に乗った肉じゃがは、如何にも庶民的で地味で慎ましやかだ。

フランス料理の様に無意味にデカい皿にちょこんとステーキが乗ってソースと装飾が広い訳じゃない。


「いい匂いだ」

「ですね。」


我ながら上手くいったと思う。

肉じゃがは此処最近作ってなかったけど…よかった。


「じゃあ食うか!」

「えっ」


丁寧に箸とご飯の盛られた茶碗を取り出して厨房を出た外に少しある机で肉じゃがを食べることにした。

ご飯、凄く美味しい。


「んー!美味しいね、花子ちゃん」

「マジっすか。」


一流シェフに言われると、照れるモノがあるんだけど、やっぱり嬉しい。



「まあ、お兄さん的にはもーちょい甘めが好きかなあ」

「…すいません」

「十分美味しいけどね。」


ははは、と笑ってお茶を飲むフランシスさんは実はとても紳士で優しい人なんじゃないだろうか。


「ホント、いいお嫁さんになれるよ、花子ちゃんは」

「えっ、」

「…寧ろお兄さんのお嫁さんになっちゃいなよはあはあ」



…スーパー変態タイムキター!

だからいけないんです、フランシスさん。

もっと、変態ちっくなトコ押さえてくださいよ。



「はあはあ本当カレンダーはいこれ」

「いや、カレンダーって…え」


此婚姻届ですよ、フランシスさーん。


「何言ってるの花子ちゃんカレンダーだよはあはあカレンダーカレンダー」

「ひぃぃっ」




フランシスさん、変態治したらモテると思います。










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