シーくんと手をつないでアーサーさんの部屋へ。


シーくんはドアを蹴っ飛ばして中に入った。



「アーサーのやろぉぉ!」


仕事中だったアーサーさんは何故か涙目で、シーくんの声に吃驚したのか、万年筆が揺れて変な線が書類に引かれていた。



「てめ、ピーター!と…花子…」


「あ、アーサーさん。」



アーサーさんは涙を拭い此方にやって来た。


シーくんは相変わらず私の手を握りしめている。



「お、おまえ何で起こしに来ねえんだよ…」



「…すいません。」


さっき拭った筈の涙をまた溢すアーサーさん。

まさか起こしに来なかったから泣いてたとかそんな…。



「べ、別に寂しかった訳じゃねえからな!た、唯ちゃんと仕事してくれなくて残念とか…そん、な、涙…かも」

「なんであやふやなんですか。」

「ば、ばかぁ!起こしにこいよ!ちょっとだけなら遅れても許す!俺優しいからな!」


一人で不憫に笑い始めたアーサーさんを見たピーターくんの目がどんびき、という感じなのは見なかった事にしておこうと思う。



「で、あの、今日私シーくん…」

「ああそうだ。こいつは俺の弟でな、ウチは親居ねえしまだこいつには親が要る年だから何時もは別の奴に預けてんだが、たまに遊びに来んだよ」


「へえ、そうなんですか。」


「だからな、こいつが来たときは忙しくなけりゃ遊び相手になってやってくれよ。」


な、と優しく微笑んだアーサーさんは昨日のアルさんを見る目と同じものを持っていた。



「アーサーさんて、弟想いなんですね。」



でも世話焼きでちょっと空回り。

愛情が年頃の子には鬱陶しいんだろうけど出来る最大限の愛を与えてる。

そんなお兄さんなのかな…。



「ほ、褒めんなばか!照れんだろ!」



「うわーアーサーうざいですよー。さ、花子。遊びにいくですよ!」

「…う、うん。」




アーサーさんは不憫なのかもしれない。






「見るですよ!これ、菊が作った漫画ですよ!」


アーサーさんの部屋を出た後、私は別の部屋に連れ込まれた。


広がるのは子供部屋。

漫画やゲーム、おもちゃが並んでいる。

アーサーさんが買い与えたものだろう。



「…え」


本田さんの漫画、と見せられたのは所謂萌え系漫画だった。


桃色の髪を棚引かせ、巨乳を揺らし、スカートを捲り上げる様に走る。

子供が読むようなものじゃない。


「ほ、本田さん…。」

「シーくんはこころちゃんが好きですよ!花子は誰が好きですか?」



キャラのたち絵が並ぶカラー表紙を向けられて、選べ、ということだ。



「え、ゆよちゃん?」


「そうですか!アルはレミアちゃんが好きって言ってたですよ!」


レミアちゃんは、金髪で一番巨乳なキャラだ。

アルさん、こう言う子が好み…。


自分の胸を見下げて悲しくなった。



「花子!テトリスするですよ!」


「シーくん趣味渋いね。」


たしかにテトリスは面白いけど…。




次はかくれんぼですよ!

ご飯持ってきてですよ!

お菓子ですよ!


シーくんと私は何時間も遊んだ。

気が付けば日が暮れていて時計の針は7時。


「シーくん、まだ帰らなくて…」


いいの?と続くところをアーサーさんがやって来て遮った。



「おいピーター、早くしねえとベールヴァルド心配すんぞ」

「やーですよ!シーくんは花子と遊ぶですよ!」


「ばか、こいつだってやる事あんだよ。」


いや、あんまりないですよアーサーさん。

あとはご飯食べてお風呂入って歯磨いて寝るだけですよ。



「…う、」

「我が儘言うな。また遊びに来ればいいだろ。」

「…し、しかたないですね、アーサーの我が儘聞いて上げるですよ!」


「なっ」



シーくん、可愛いなあ。

アーサーさんの面食らった顔を一瞥して私の方に向かってきた。



「しゃがむですよ!」


「ん、ん?」



言われた通りしゃがむと、頬に小さくリップ音をたててキスをされた。


「なっ、ピーターてめっ…」


「シーくんがおっきくなったら花子をお嫁さんにしてあげるですよ!」



アーサーさんにべー、と舌を向けて、シーくんは子供部屋から出ていった。










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