「ああ、すいません。ちょっといいですか?」



トニーさんと別れた後、控えめで低い声で呼び止められた。

今日はやけに初対面の人に話しかけられるなぁ。



振り向くと、着物に身を包んだ小柄な男性。

そして、此処に着てからはじめて会う日本人だった。



「は、はい?」

「あ、あなた!花子さんですよね?」



アーサーさんや湾ちゃん、エリザさんから聞いた日本人の名は私の名いがいにひとつ。

もしかして、うわさの本田菊さんではなかろうか。


「は、はい。そうですが…」

「私は本田菊と申します。そのメイド服のデザインをさせていただいたものです。」


予感的中、本田さんだった。


「あ、お話は聞いてます。湾ちゃんが本田さんの漫画がどうとかいってました。」

「ああ、湾さんですね。彼女は私の妹のようなものなのですよ。」


妹という割には彼も若く見えるのだが、いったい何歳なんだろうか。

むしろ未成年にも見えるんだけど。


「あの、失礼ですが年齢を伺っても?」


やけに丁寧な口調になったが、きいてみた。


本田さんは、待ってましたとばかりに人差し指を唇に添え、軽くウインクして、



「禁則事項です」



と、某みくるちゃんのように言われました。



「そ、そうですか。」

「ええ。ちなみにとっくに成人してますし、かなり爺ですよ」

「ええええええ」


いやいや、爺って!!

アーサーさんより若く見える彼はいったい何歳なんですか!?

確かに、日本人は欧州の人に比べて若く見えるというけれど!!!



「まぁ、気になさらないでください。それより、少々お時間をいただきたいのですが」

「はぁ」


私はメイドといっても見習いで、家事はしていない。

どちらかというとアーサーさんの付き人という感じだった。


時間もあるし、大丈夫かな。




本田さんは、私が元居た方、アーサーさんの執務室へと足を向けた。





こんこん、失礼します、本田です。


昨日、エリザさんがやっていたのとまったく同じ動きで彼は声をかけた。

返ってきた声はぶっきらぼうなものではなく、優しそうで少し高いものだった。





「失礼しますね、」


本田さんと目を合わせたアーサーさんは嬉しそうな様な微妙な表情を浮かべている。


「ああ菊。久しぶりだな」

「ええ、ご無沙汰しております。花子さんと偶然会いましたので、同行して頂きましたが、宜しいでしょうか?」

「構わない。花子も、適当にかけてくれ。」


朝、アーサーさんの隣に座ったソファ。

今度は本田さんの隣だった。



「あの、アーサーさん。本田さんて何をしてる方なんですか?」

「ん、菊か?」

「私は漫画家やイラストレーター、メイド服のデザイナーなどなんでもしますよ」


つまりは、アーティスト、ということなんだろう。

プロかぁ、すごいな…。


「昔は着物を担当していましたが萌えを知ってからはもっぱら漫画とメイドです。」


昔って、いつの話ですか本田さん。


ああ、だから漫画好きの湾ちゃんが憧れてるのかあ。


「菊には従業員の制服のデザインをして貰ってるんだ。」


アーサーさんの会社はいろんなチェーン点を持ってると聞いているので、その制服という意味だろうか。




「今日は花子さんに直接会いにきたのです。私がデザインしたメイド服を着ていただいているとのことでしたので。」


「あ、ありがとうございます…。」



ということはこのやけに短いスカートも彼の趣味ということなんですか、アーサーさん。



「に、しても!!花子さんてば中々の萌えキャラですね!」


突然、くわっと覚醒したように目が輝いた本田さん。

昨日の夜のエリザさんのような変りっぷりだ。


「お淑やか過ぎずチャラチャラしすぎず!ハヤテでいうなら歩ちゃん!絶望先生で言うなら奈美ちゃん!」


すいません、なんの話ですか。


「普通萌え!!花子さん!普通って言うなあ!って!おっしゃってください!さあッ!!」


「ふ、ふつうっていうなぁー…」


「ふぉおおぉお!!テラ萌えます!!もっと!もっと!」


「普通っていうなぁー」


萌えええええええと叫ぶ本田さんをよそにアーサーさんの目をみると、半泣きだった。



「ああ花子…ああなった菊は誰にも止められないからな…」



別に忘れられてて寂しかったとかそんなんじゃないんだぞ、とアーサーさんは涙をぬぐった。













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