「あれ、トマト?」


アルさんを見送って私室に戻ろうとしたとき、ひとつ転がったトマトをみつけた。


とても真っ赤でおいしそう。
フランシスさんが料理で使うんだろうか。



「ごめん!トマトそこらへんころがってへん?」



関西弁とともにやってきたのは、こんがりとした肌に作業着を着てトマトの入った籠を持った男性だった。




「あ、はい。えーっと、貴方は?」


此処にいる以上は、雇われた人なのだろう。
お客人が土のにおいをさせてトマトを持ってるわけがない。



「ああ、俺?アントーニョ・フェルナンデス・カリエド!此処の庭師やってんねん。」


彼も外国人なのか、日本人離れした顔立ちだ。
そして、やはりイケメンさんである。



「私は、山田花子です、新しいメイドで…」


「ああ!フランシスの言うとっためっちゃかわいいメイドさんやん!ほんまにかわいいなぁ!」


なんていうか、かわいいとか、言ってることと笑顔っていうのはフランシスさんと同じはずなのに…

爽やか!!!


「えっと、トマト持ちましょうか?大変そうですし」


彼の持つ籠からはトマトがあふれんばかりに盛り上がっている。

上のほうにのっている幾つかを持つだけでも大分変わると、思うんだけど。


「えぇ!?マジでいいん?ほんならお願いするわ!ごめんな、女の子にこんなんさせて…」

「いえ、私メイドですし。」

「せや、花子ちゃんて呼んでええ?俺んことはトニーでええから!」


きらきらーん、と爽やかな笑顔で言うアントーニョさん、もといトニーさん。

庭師だけに向日葵の花のよう。

ん、…庭師といえば、昨日アーサーさんが庭師のことが嫌いとかそういうの…


「あの、つかぬ事をお聞きしますがアーサーさんと仲悪いんですか?」


その言葉で、トニーさんの笑顔が消えた。


「ごめん、カークランドのことは言わんといて、俺ほんまブッ殺したいくらいあいつ嫌いやねん。」


顔に影が入って、鬼畜とか腹黒とかそういう感じに見えた私の目は間違っていないはずだ。

本当に目には一筋の光、絶望や失念など負の要素を抱えたような表情のトニーさん。

彼は一瞬トニーさんなのか?と疑うほどの豹変だ。


「す、すいません…」

「いや、怖がらせてごめんな、俺ほんまあいつ嫌いやねん。色々あってなー」


申し訳なさそうな笑顔をへらりと浮かべて再び歩みだした。

その鬼畜顔にもびっくりしたが一瞬の後の笑顔にもびっくりだ。

切り替え、早ッ!



そういえば向かっている先は厨房なのか、ほんのりといい香りがする。

そういえば、コックはフランシスさんだっけ、ド☆変態成人エロティックフランシス。



気がついたら、厨房の前にいた。



「花子ちゃん此処まででええよ、ありがとー」


私の持っていた分のトマトも籠にのせて、厨房に入りかける。


と、なにかを思い出したように私の名を呼んだ。





振り返ると、



「元気の出るおまじないやーふそそー☆」





ほんの少し、きゅんとした。













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