「紅茶です。」

「ああThank you!」


流暢な英語を使う眼鏡の男性、もといアルフレッドさん。

アルと呼んでくれと言われたのでアルさんと呼ぶことにする。

彼はアーサーさんの従弟で、映画の会社の次期社長らしい。


親同士も親しく、二人も昔馴染みという事から友好で、今日は経営についての話をしにきたらしい。


昔は兄弟のように仲のよかった二人だが、アルさんが今は煙たがっているらしい。
なんでもいつまでも子ども扱いするから、だそうだ。


「にしてもアーサーは羨ましいよ。こんなかわいいコがメイドだなんてさあ!」

「あ、ありがとうございます…。」


業務的な話は私が部屋を出る前に一瞬で終わり、アルさんに此処にいて欲しいと言われたので今はここにいる。



「ねえ花子!俺のヒロインにならないかい?」

「え、結構です。」


ヒロインて。そういうのはかわいい女の子限定なんです。

ほら、湾ちゃんみたいに笑顔がかわいくて明るいコなんかヒロイン向けですよ。


「アル、こいつは俺のメイドだ。手ェだすな。」


私の横に座るアーサーさんが紅茶を飲む私の前に手を伸ばして私とアルさんを遮断する。


「えー…。“ただの”メイドだろ?俺のヒロインの方が楽しいんだぞ!」


だからウチに来いとか、やるわけねえだろばかぁ!とか

…なんか話進んでるんだけど。


私はメイドをやめられないんですよーアルさーん。



「無理ですよアルさん。私メイドやめられませんし」

「Why?俺のヒロインが嫌なのかい?」


寂しそうな表情を浮かべたアルさん。

其れはまさに、ぬいぐるみのよう。

な、なんて、いうか!!母性を擽られる!!


「あ、いや、そうじゃなくて私なんかがヒロインとか出すぎた真似ですしメイドもせっかく雇ってもらってるんで…。」



申し訳なさげにそう言うとアルさんの表情は一瞬目を見開き、
そして、ぱあっと輝き花が咲くような笑顔に変わった。


「さすが俺のヒロイン!性格も素敵だね!」


伸びてきた太い腕

ぎゅ、とアルさんの胸のなかにダイブ。

朝に感じたアーサーさんの薔薇の匂いとは違う暖かい匂いがした。


「…離せばかぁ!」


アーサーさんが私の肩をひっぱり、アルさんから引き離そうとする。


暫くしてアルさんは離してくれたが、こんどは



「じゃあ花子、20になったら結婚してくれよ!」



突然のプロポーズでした。


「「はあああああ?!」」


いやいや、私はお父さんとお母さんを待たねばいけません。
あなたと結婚して、幸せになるなんてムリですよ。


「駄目かい?」


狙ったように上目使い。

こ、こいつ…!!!



「駄目に決まってるだろ!こいつは俺のメイドだって何回言やぁ分かんだ!!」


ちょっと語尾を強めてアーサーさんは言う。

眉間には軽くしわがよっていた。



「あの、アーサーさん、紅茶零れますよ」


「……君ってば空気読めないのかい?其処もチャーミングと思うけど…」


「お前が言うなばか」



アルさんを小突いたアーサーさんの表情は、写真に写る若いアーサーさんの円満の笑顔に酷似していた気がした。












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