「…なにしてんの?」
「き、木登りです…」

部活に来い来いと幼馴染がうるさいから一応顔を出しには来たものの、やっぱりつまらなくて、体育館を飛び出した昼下がり。
適当にボールを手で遊びながら校舎の影になっている部分まで何の気なしに歩いてくると、うちの制服を着た女が木登りをしていた。
胸は…さつきのがでかいけど、まあ俺的にはセーフライン。

そんなことより、俺は妙にこの女に興味が湧いた。
なーんかどっかで見たことあるようなないような。
………あ、隣のクラスの学級委員長か。
一人で考えて一人で思い出して一人でスッキリした。
だるい集会で、一生懸命喋っていたのを思い出す。
話は当然聞いてねーし、聞く気もさらっさらねーけど、蒸し部屋になった体育館で下着が透けていたのが気になってガン見してたな、そーいえば。
で、その黒の水玉のブラの女がなんでこんなとこに?

「黒の…じゃなくて委員長、なにしてんだよ」
「えっとですね…」

これです。
と彼女が俺に見せてきたのは緑の安っぽいカゴ。
まあ、絵に描いたような「虫かご」だった。
ミーンミーンと劈くような鳴き声。そこで俺は理解した


「あー…セミ捕り?」
「その通りです!」

委員長の声でジジジ、と鳴いた蝉が一匹木から飛び立った。
どうやら、この木にはやたらと蝉がいるらしい。
これだけいれば一匹くらいとれるかと思ったんですが。
委員長は苦笑いを携えて言った。

「虫網は?」
「弟は素手で捕まえてたので…」

委員長には弟が居るようで、勝手に聞いてもいないのに弟の話を始める。
小学3年生で、友達とセミ集めをしていること。木登りをして背中を強く打ってしまい、幸い痣ができた程度で済んだものの親からセミ集めを禁止されて落ち込んでいること。そして悲しむ弟のかわりにコイツがセミ集めを始めたこと。
…とりあえず言わせてもらうと、アホかと思った。
まあ話を聞くだけだといいオネーチャンじゃねーか。おっぱい結構でけーし。さつきのがでかいけど。
こんなネーチャンがいたら、弟はきっと俺のようにおっぱいが好きな男になるに違いない。ここに断言する。
で、委員長に視線を戻す。
安そうな虫かごには蝉はおろかチリ一つも入っていない。
弟はしらねーが、姉のこいつはどうやらセミ捕りが下手くそなようだ。

「お前セミとんの初めて?」
「…お恥ずかしながら」

少し恥ずかしそうに委員長は頷く。
なにが恥ずかしいのかわかんねーけど、つーか俺的には木登りまでしてセミを取ろうとする女子高生ってシチュエーションが既に恥ずかしいけど、こいつのおっぱいに免じて言わないことにした。揉みてえ。

「カゴかせ」
「え?」
「いいから、虫かご」

恐る恐る相変わらず空の虫かごを差し出してきた委員長から虫かごをふんだくった。
委員長は結構な高さにいたが、どうせ俺の背が届く範囲…地上から2m程度の場所だったので、背伸びするまでもなかった。

「あの、」
「みてろ、これがセミの取り方だ。」

少し手を延ばして、手頃な場所に止まっていたセミを捕まえた。
機嫌良くミーンミーンと暑さを増長させるような鳴き声をあげていたそいつは、俺が捕まえることによってジジジと鳴く。今日からお前の家はココだセミ野郎。
空いたかごにセミをぶちこんで、ふたを閉めた。セミ捕獲成功。

「す、すご…」
「まー俺くらいになるとこれくらい朝飯前だな。」
「すごいです!」

弟のかわりのはずなのに、委員長は目をきらきら光らせた。
こいつもセミ好きなの?聞いたらそうでもないですけど、と口ごもる。
そういうワイルドなとこが、すごいなって。
にっこり笑って委員長は言う。
初めておっぱいより顔に目がいった。コイツおっぱいもだけど結構顔いいのな。

「あの、青峰くん。」
「あー委員長、そのうち弟のセミ取りは解禁されんのかよ?」
「えっ…うん、八月には…木登りはダメだと思うけど、」
「じゃーここ連れて来い。この俺が直々に教えてやるよ。」

なんでこんな面倒極まりないことを自分で言い出したのかは今でもよくわかんねー。
でもこのとき俺は確かに、委員長の笑顔をもっと見たいと思ったのだった。



水玉模様の夏のセミ


コイツを俺の虫かごの中にぶちこんでやりたくなるのは、もうちょい先の話。


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