高校を卒業して起業から3年。
仕事も軌道に乗ってきて、ちらほらと大きな所からの出演依頼が来るようになってきた。
相変わらず社員は俺と鉄馬の二人。
それとたまに手伝いで名前。
彼女は大学に行っているから本格的に手伝うことは出来ないけれど、俺が依頼先に行っているときに他の所からの連絡を取り次いでくれたりする。
本当は大学やめて俺のとこくればいいのに、なんて言ってやりたいところだが、正直名前を養えるかといえばまだまだ微妙。
彼女の人生を俺が決めるわけにもいかなくて、何も言えないでいた。


夜中の1時。ノートパソコンで仕事用のメールをチェックしていると、インターホンが鳴った。
こんな時間に誰が。インターホンの受話器を取るとそこにはさっきまで頭の中にいた彼女。
なんでこんな深夜に、何かあったんだろうか。
色んな思いが先行するが、とりあえずロックを解除して彼女が部屋に来るのを待った。

「キッドくうん!」

鍵を開けておいたドアが勢いよく開き、彼女が腕に飛び込んで来る。
それは嬉しいんだけど、もう深夜だから声を抑えてくれないかねえ。
ドアの鍵とチェーンをしてから足取りおぼつかない彼女を支えつつソファまで連れて行く。
彼女からは酒の匂いが漂っている。おそらく大学の友達と飲んでいたんだろう。

「突然どうしたの。あんまり夜出歩くなってこの間言ったところじゃない」
「だってえ、キッドくんのおうちが近所だったからあ」

完全に酔い切ってる。ベロンベロンだ。
まともに会話が成立しそうにない彼女をみてため息をつくと、ため息をついたら幸せ逃げるよ、なんて顔を覗き込んできた。
真面目な普段とは比較にならないハイテンションに赤く熱を帯びた頬。
これは結構クるんじゃないの。
とりあえずこのままほっとくわけにもいかないので冷水をグラスに汲んで彼女に押し付けた。

「いらなあい」
「いらないじゃないでしょ。また明日朝に頭痛いっていうのは名前なんだから飲みなさい。」
「やだ」
「口移しでもいいなら俺は構わないけど」
「…飲む」

それはそれでちょっと残念。
水を飲ませてからソファに横にならせてシーツを被せた。
まだ寝ないよと言う彼女は本当に寝る気配がない。まだまだ元気そうだ。
真面目な彼女がこんな遅くまで飲んでいるのだから明日は講義がないんだろうが、あんまり夜更かしさせるのもよくない。

「キッドくうん、一緒に寝よお」
「ありがたいお誘いだけどまだ仕事が残ってるんでね。遠慮するよ」
「なんでー…」
「終わったらいくから先に寝ときなさい。」
「うー」

いつもとは比べ物にならない甘えっぷり。
こりゃ何かあったな、とシーツに埋まる名前を見る。
こんな酔い方をするのは珍しい。明日の朝聞いてみるかねえ。

「ねーキッドくん」
「なーに。もう寝ろって」

パソコンのディスプレイから目を離さないまま返事をした。
後ろのソファで寝ている名前の様子はまったく見えない。

「私がさ、キッドくんとこに就職したいって言ったらどーする?」
「…そりゃ、嬉しいねえ」
「雇ってくれる?」
「できればそうしたいけど…やめといたほうがいいんじゃない」
「なんで」
「親が心配するでしょ。同級生が社長の会社なんて、生活が不安で。」
「キッドくんの会社は儲かるってヒル魔くんが言ってたよ。」
「買い被りすぎだっての…」

名前も一人前に将来の事を考え出したのか。
親のような気持ちになりつつもあの悪魔と仲良くしてるのか、なんて少し嫉妬する。俺もまだまだ子供。

「キッドくん」

突然背中が暖かくなった。
さっきよりも近い場所で俺の名前を呼ばれて、背中に名前が貼りついていることを認識する。
首に腕が回されて、ぎゅっと密着した。

「…名前?」
「私の就職第一希望知ってる?」

呼びかけには応えず、独り言のように名前は呟き始めた。
カタカタとキーボードを打つ手を止めて首に回された腕をぎゅっと握る。

「私、キッドくんとこに永久就職したいなぁ。」

目を見開いた。
それだけ言うと、彼女は何も言わないまま俺の肩に顔を埋める。
…コレ、プロポーズじゃないの。
酔った勢いとはいえ、彼女からされるとは。男の俺が格好付かない。
いつか仕事がうまくいって安定しはじめたら言おうと思っていたのに、どうやら彼女は待ちきれなかったようだった。

「…全く、計画がぐしゃぐしゃじゃないの」
「…。」
「それは俺から言いたかったんだけどねえ」
「…!」

少し早いけど、と前置きをして、彼女と向き合う。
やっぱり酔った顔をしているけれど、今はそれでいい。
いつかちゃんと時が来たら、素面の状態で聞いてもらおう。

「名前さん、俺と結婚してください。」

顔の赤いまま、彼女はにっこりと微笑んだ。

「不束者ですがお願いします!」





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キッドさんて戸籍ないけど結婚できるんだろうか…
120623



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