一人暮らし用のワンルームの部屋。
部屋の壁に背を預け、フローリングに直接座り込んでアメフト雑誌を読む部屋の主、キッドくん。
部活が終わった後、なんとなくキッドくんの家に行ってみたいと言ってみた。
了承を得てやってきたはいいものの、彼の家には何もない。
最初のうちこそ、冷蔵庫を開けたりベッドの下に何かないかと部屋中を観て回っていた。
けれど本当の本当に何もない。あるのは生活に最低限必要なものと、アメフト関連のもの。
あとは銃とか、西部っぽい洋服とか。面白そうなものは何もない。(銃を触ろうとしたら怒られた)
暇になり、最終的には私も彼と向かい合うように壁に背を預け、ケータイを弄っていた。

「キッドくんの部屋何もないね。」
「…欲しいものも、そんなにないしねぇ」
「クッションとかはいらないの。床に座るの冷たいよ。冬になったら凍え死ぬよ。」
「冬になったらベッドに座るからねぇ、別にいらないかな。」
「ふーん。」

なんだかとってもつまらない。
キッドくんが雑誌から目を離さないのも、面白そうなものが何もないのも。
いつか友達の家に行ったとき、本棚の上には彼氏とのツーショットが飾っていた。
別にそうして欲しいわけじゃないけれど、今、少しだけ友達が羨ましい。

「キッドくん、私暇。」
「最初に言ったでしょ、うち何もないって」
「そうだけど、本当に何もないとは思わなかったんだもん。」

ケータイを弄るのにも飽きて、隣にあった簡易型のベッドにダイブした。
寝心地はあんまりよくない。だってパイプの組み立て式だし。
でもなんだか落ち着く。
多分、キッドくんの匂いがするからだ。
髭生やしておっさんみたいだなぁって初対面のときは思ってたけど、別に枕からは加齢臭はしないなぁ。
まぁ私と同級生だから当たり前だけど。
枕に顔をうずめて脚をばたばたさせていたら、脚が突然動きにくくなった。
顔を枕からずらして脚を見ると、足元で三つ折になっていた掛け布団が私の腰あたりまでかかっている。
視線を上にあげると、キッドくんがいた。

「なんですか。」
「あんまり女の子が脚ばたばたしないの。」
「だって暇なんだもん…うるさかった?」
「そうじゃなくて。」

見えてる。と指差したのは私の腰あたり。
…スカートがめくれてたんだろう。

「見たの。えっち。変態。エロオヤジ。」
「不可抗力だ。」

ギシ、とベッドが軋む。何事かと思えばキッドくんがベッドの私の足の横あたりに腰掛けていた。
依然目線はアメフト雑誌に向いている。つまんない。
再び枕に顔を埋めれば、なんだか眠くなってきた。
大好きなキッドくんの匂い。中途半端に暖かい部屋が私に寝ろと言っている気がする。

「キッドくん」
「今度は何」
「寝てもいい?」
「誘ってる?」
「…へんたい」

アメフト雑誌からは目を離さないまま、喉で笑って彼は言った。
…やっぱり邪魔だなあ。
上半身だけを器用に起こして、手を伸ばす。
ギリギリでアメフト雑誌に指を引っ掛けて、フローリングに叩き落とした。してやったり。

「…名前」
「変態キッドくんが私のことみないからわるいんです」
「妬いてるなら素直に言えばいいのにねえ」
「別に妬いてない。ひまなだけ。」

自分の子供っぽい行為が少し恥ずかしくなり腰までかかっていた掛け布団を頭までかけて、包まった。
なんだかキッドくんに抱きしめられてるみたいだ。なんて考えてしまって恥ずかしい。
布団を頭まで被ったままのっそりと腰まで起き上がり、ベッドに腰掛けたままのキッドくんに背後から抱きついた。

「なにそれ、妖怪布団小僧?」
「いやなにそれってそれがなにそれなんだけど…。そうです布団小僧がキッドくんを襲いにきました。」
「俺は名前を襲いにきたんだけど」
「そういうのいいです。」
「はいはい。」

腰に腕を回して背中に額を当てる。
手のひらに当たるお腹が硬い。
さすが鍛えてるんだなあ。私のやわらかいお腹とは大違いだ。

「キッドくん」
「はい」
「好き」
「…俺も」

この部屋にはなにもない。
でもこの部屋にはキッドくんがいる。

「キッドくん、次くるまでにクッション買ってよ」
「…しかたないねえ」

次がいつになるかはわからない。
でもきっとそのときには私用のクッションが用意されてるんだろう。
また来たいな。この何もない部屋に。
布団の中で目を閉じて、腰にまわす腕の力を強めた。






120622


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