クラスメイトには、各々色んなイメージがついていると思う。
明るい人、変わった人、しっかりした人、暗い人、などなど。
そんな中でも私は大人しい人だとか地味な人に分類されるような人間だった。
そして、私の恋人は爽やかで、親切で、フレンドリーで、堂々としていて、頭がよくて、運動神経のいいイケメン。クラスの中心人物だった。
その名を大和猛。

「大和くん、次の授業の数学の小テストやねんけど…」
「ああ、範囲はココからココまでだね。恐らくこのあたりが…」

「大和ー、あそこのプリント剥がさなきゃいけねえんだけど、押しピン外してくんねえ?」
「お安いご用さ。あれでいいんだね?」

男女問わず誰にでも隔てなく接する彼はまさに人気者。
特定の仲のいい友達意外と話すことが苦手で、男の子とはまともに話すことの出来ない私とは大違いだ。
そんな私がなぜ大和くんと付き合っているんだろう。
正直なところ、私も疑問である。
ただ、彼が私に告白してきたのも、私が彼に恋しているのも事実だということだけは確かだった。

「大和君ってさー彼女おらんの?」
さぁ、どうだろうね?」

彼はモテる。故にこういう質問をよくされる。
最初こそ大和君も公表したがっていたけれど、私があまりおおごとにしたくないので、大和君には恋人はいないということにしてもらっている。
だけど、彼女はいないって言ってね、って言ったのにも関わらず私は彼が彼女はいないと言ったところをみたことがない。
いつもこんな風にはぐらかすだけだった。

「えー大和くんの好みのタイプってどんなん?」
「クラスで言ったら誰が好みー?」
「ああー気になるー!」

大和くんと話していた派手な女の子たちの言葉に肩が震えた。
私を好みのタイプだと言わないで、とは言っていない。
大和くんはなんて答えるんだろう。
別な子が好みだといわれてしまったら、少しショックだ。

「好みのタイプか。そうだな…名前みたいな子かな。」

名前?誰?名字さんて名前って名前じゃなかった?ああ、そういえばー。えっ、もしかして大和君名字さん?正直、地味だよねー。ダサいし。
人を馬鹿にしたような言い方だった。少し頭にくる。でもしかたない。全て事実だった。
ああいう派手な女の子からしたら、私みたいなちんちくりん、大和くんには似合わないと思われているんだろう。実際、私も彼とは似合っているとは思えない。
本を読むフリをしながら斜め前の女の子たちと大和くんの会話を聞いている。
距離は机2個分くらいしかないので、彼女たちは私がその話を聞くのを全く気にしていないようだった。
やっぱり私と大和くんは似合わないよな、と瞼を伏せると、バンッと大きな音が教室に響いた。

教室に居た生徒が音の出所を見る。大和くんが、机を叩いた音だった。
さっきまで話し声で騒がしかった教室が一瞬で静まり返った。
なにしてんの大和くん。気まずいったらありゃしない。
大和くんの予想外の行動に女の子たちは豆鉄砲を食らった鳩のような顔をしている。
クラスメイトは何事だとぽかんと口をあけたまま。
大和くんは顔をあげて言った。

「俺は名前が好きだ。」

彼はいつもどおりの、堂々とした声で言った。

「君達からしたら名前は地味であまりセンスがよくないかもしれないね。でも俺は彼女が好きだ。少なくともこのクラス…いや、この学園内で彼女が一番かわいいと思っているよ。」

まさに恥ずかしいセリフ。
自然に視線が大和くんから私へ移る。
ことの重大性を理解しないまま私は視線を泳がせた。
ベージュのブックカバーに包まれた本を持つ手の手首を大和くんに取られ、立ち上がらされる。

「名前。」
「っは、はい」
「キスしようか。」

は?何言ってんだコイツ。拒否するまもなく近づく顔。触れ合う唇。固定される頭。目の前には大和くんのイケメンフェイス。奥には驚きで口を押さえるクラスメイトが居た。
大和くんは今さらっとキスをぶちかましているが、正直な話今まで彼とキスをしたことなどない。そして私にいたっては今までキスをしたこと事態なかった。
つまりこれは事実上のファーストキス。まさか教室ですることになるなんて。一生忘れないどころか忘れられない。クラスメイトも忘れられないような思い出になってしまった。
頭を固定する手の力が緩み、大和くんと私の間に数センチの距離ができた。
皆が見ている。ありえん、といわんばかりの顔で。そりゃそうだ。そんな顔をしたいのは私である。

「や、っやま…とく…?!」

腰が抜けて、地面にへばりそうになったところを大和くんに支えられ立たされた。
彼はこれ以上ない笑顔で、よかったよ、でも俺のことは猛って呼んで欲しい。なんてこの期に及んで言ってきた。今言うことはそれじゃない。

「コレでわかったかな。本当は言わないでほしいって言われていたんだけど、俺の名前をそんな風にいわれちゃ、我慢できなかったんだ。ごめん。」

クラスメイト全員に言ったのか、女の子たちに言ったのか、私に言ったのか。
分からないけれど、とりあえず私にはせめて真っ赤になった顔を隠すことしかできなかったのだった。





部活の先輩に大和君と付き合ってるんだね、なんて言われて学園中に知れ渡っていることを知るのは次の月曜日のことだった。


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -