私は背が低い。
低いって言っても、平均を数センチ下回っているだけで、別に140cmとかそういう訳じゃないのを理解していただきたい。
それでもまぁやっぱり同級生よりは低くて、ちょうどいい場所にあるからと頭をなでられる。
別に頭をなでられるのが嫌なわけじゃない。
子ども扱いされてるっぽいのはちょっと…気に食わないけど、背が低いってことについてはもう私の個性として認めている。

でもやっぱり、困ることもあるわけで。








放課後の部活。
アメフト部のマネージャーをする私は毎日あくせくと選手のために働いている。
チアはいっぱいいるのになんでマネージャーは二人しかいないんだろう。
しかもそのもう一人の比奈はやっぱりチアの練習で忙しい。結局は私一人というわけだ。
うち、結構強い学校なのになぁ。
そんなことを嘆いたって仕方がない。突然マネージャーが増えるわけでもない。
一人で仕事をこなすのは大変だけれど、その分やりがいがあるし、それに手の空いた選手がたまに手伝ってくれたりもするのだ。
今だってほら。

「名前先輩、手伝いますよ。」
「あっ、陸くん。ランニングは終わったの?」
「はい」
「さすが!じゃあこれあっちにお願いしてもいい?」
「これもってけばいいんですよね?」
「うん」

甲斐谷陸くん。
私が言えた義理ではないが、背が低い。
西部ワイルドガンマンズの期待の新人エースだ。
紳士的だけどかわいい彼を私は弟みたいに思っている。
…って言ったら怒られるかな。

「運んできましたよ。」
「早いねーさすが…ありがとう。」
「いえ…。もう休憩みたいなんで、ココに居てもいいですか?」
「もう休憩か!ちょっとまってて、ドリンク配ってくるから。」
「じゃあ俺も手伝いますよ。」
「いや、陸くん選手だし…。」
「クールダウンもして暇なんです。やらせてくださいよ。」
「…わかった。」

選手に手伝ってもらうなんてちょっとかっこわるいかな、なんて思いつつも1/3の選手のボトルを陸くんに渡す。
もうちょっといけますよ、って言われたけど無視。だって私の仕事がなくなっちゃう。

「はい、キッドくん。」
「ああ名前、ありがとう。」

一番に手渡すのはキッド君。
実は私の好きな人。
背が高くて、すごく落ち着いてて大人な人。
正直私と一緒に居ても同い年には見えない。なんて失礼かな。
でもそういうところも好きなんだ。
今だってほら、マネージャーとしてお礼を言われただけなのに、心臓がバクバクしてる。

「…名前は陸と仲がいいんだねぇ」
「えっ、ああ、まぁ…うん…」

鉄馬くんにもボトルを渡しているとキッド君から声がかかった。
予想外のことで動揺する。
だって、今までこんなことなかったから。

「ホラ、陸くんて弟みたいだからさ!仕事もよく手伝ってくれるし、いい子だよ。」
「へえ」

キッド君の声が少し低くなる。いや、気のせい?そんなはずは。
そんなキッド君がちょっと怖い。
あれ、もしかしてマネージャー業をさぼってるって思われてるんじゃ、いやいやそんな。

「ち、ちがうよ!私ちゃんと仕事してるよ!」
「…え?まぁ名前はよく働いてくれてるよ。」
「別に陸くんに仕事押し付けたりはしてな…」
「名前、なんか勘違いしてない?」

ずい、とキッド君が私との距離を一気に詰めた。
えっ、えっ!?と動揺する私の脳内。
話してるだけで心臓がバクバクなのに、こんなに近づいたら死ぬ。
これもう距離あっても音きこえるんじゃないの?ってくらい心臓はうるさい。

「別に俺が気にしてるのは名前が仕事してないってことじゃないよ。」
「そ、そうなんデスカ…?」
「…元よりわかってもらおうとは思ってなかったんだけどねぇ、俺もただの『子供』ってことか。」
「いやキッド君は大人だよ…。」
「子供だよ。今だってね、こんなことで陸に嫉妬してるから。」

しっ、と
指先から血が抜けたようにつめたい。
え?嫉妬?誰が?誰に?なんで?
脳内でよくキッド君の言葉が処理できなくてフリーズする。性能の悪いパソコンみたいだ。
目の焦点が合わない私の前でキッド君が手を振るけど、なんかもうダメだ。
もしも私の自意識過剰じゃなかったら、私と陸くんが仲いいのにキッド君が嫉妬した?
嫉妬?なんで?まさか私のことが好きとか?
いやいやそんなハズないじゃんキッド君の好みのタイプ、『心が広い人』みたいなの雑誌のインタビューで言ってたし。
私、キッド君と知らない女の子が話してるだけで死にそうなくらい嫉妬するのに。
あれ、もしかしてキッド君もこんな気持ちだったんじゃ、自惚れすぎ?
そういえばドリンクまだ全員に渡してない。
手に抱きしめたままのドリンクはもう私の熱でぬるくなってしまったんじゃないだろうか。
ごめん牛島先輩、なんて的外れなことを考えた。

「…名前?」
「えっ、あっ、その、え、え?!」
「落ち着いてよ」
「いやだって、その…キッド君…」
「ここまで動揺されるとは思ってなかったんだけどねえ」
「だって、そんな…」

ぽん、と軽くキッド君が私の頭に手を置く。
いつも女友達にされるそれも、キッド君がするというだけでドキドキだ。

「名前は小さいね」
「…よ、よくいわれます。」
「俺も陸くらい…は言い過ぎか、それくらい小さかったらよかったのかもしれないな」
「き、キッド君はそれくらいがかっこいいデスヨ」
「…かっこいい?」
「ハイ…」

かっこいいなんてうっかり口を滑らせたのが恥ずかしくてうつむいた。
でもキッド君がかっこいいのは事実です。今だって照れくさそうに笑うのがめちゃくちゃかっこいいです。

「俺もそのサイズの名前がかわいいとおもうよ。」

かわいい、という言葉に過剰反応して顔をあげた。
多分、私の顔は今真っ赤だ。
そんな顔を見られるのは恥ずかしいけれど、キッド君から目が離せない。
かっこいいなあ、高2なのに髭生やしてるけど。そういうとこもかっこいい。

「遠目に見てさ、陸と名前すごくお似合いだったよ。」
「え」
「それで俺、嫉妬しちゃってね。呼びとめてゴメン。ドリンク渡しておいで」

私の頭から手を離して、キッド君は行くように促した。
そうだ、先輩たちがドリンク待ってるのに。私なにしてるんだろう。
遠慮がちに頷いてから先輩たちの元へ駆けていってドリンクを配る。
当然、遅い!って文句を言われたけれど、私の真っ赤な顔を見て先輩たちは押し黙った。
多分、なにかあったって察してくれたんだろう。


ドリンクを配り終わっても、私の心臓はうるさいまま。
練習も再開したのに、私は仕事手付かずだ。
マネージャー失格だな、なんて思いつつ空を仰いだ。









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子供なキッドさんとそれに動揺する夢主がかきたかったんです。
よくわからないカンジになってしもた。


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