中学に入学して二年。
最上級生になった頃、生まれてはじめての告白を受けた。
相手は隣のクラスのサッカー部部長の薮内くん。
さわやかイケメンで有名で、ウチのクラスにも結構ファンはいるらしい。

…と、いう話を二人いる幼馴染の片割れにしてみた。

「…名前が告白、か」
「びっくりしちゃったよ!」
「何か接点はあったのか?」
「んー、二年の時一緒に環境委員してたくらいかな。その時は話したり委員会の後は一緒に帰ったりしてたけど…。」
「意外だな。名前に男友達がいたとは思わなかった。」
「友達っていうか…いやでも、雲水くんとかくらい仲いい男子はいないよ。」
「そうだな、俺も名前くらい仲がいい女子はいないな。」
「…雲水くんは女友達自体そんなにいないじゃん。阿含はいっぱいいるけど。」
「ほっとけ。…それにアレは友達というより…まぁ、なんだ。また別物だろう。」
「あはは、そうだね。」

他愛もない話をしながら帰る放課後。
珍しく部活が休みだった雲水くんと二人肩を並べる。
小学校のときは毎日三人一緒に帰っていたのに、中学に入ってから部活で忙しくなったし、そうでなくても阿含と帰ることはなくなった。
…こうして私たちも離れていくのかな、なんて思うと少し寂しい。

「じゃあ、また明日ね。」
「ああ」

二軒並んだ金剛家と名字家の間で雲水くんと別れて帰宅。
おかーさんただいま、今日の夕飯なに?なんていつもどおりの会話。
告白される、なんてイレギュラーなことがあったけれど、思ったよりもいつもと気分はかわらなかった。
それだけ、薮内君のことを意識していなかったということだろう。
薮内君には申し訳ないけど、この告白はお断りするつもりだ。
…今日は言い逃げのような幹事で告白されてしまったので、返事し損ねてしまったけれど。

ケータイの画像フォルダを見ていると、薮内君とのツーショット写真を見つけた。
確か去年の運動会でサッカー部の男子にのせられて撮ったんだ。
結果は阿含率いる5組にボロ負けだったけれど、結構楽しかった記憶がある。
…もしかして、薮内君はこの頃から私のことを好いてくれていたのだろうか。
残念ながら去年の運動会は同じクラスだった雲水くんを応援していたので、彼のことなんか眼中になかったわけだが。

「薮内君…。」
「あ゛ー?お前薮内がすきなのかよ。」

一人きりの部屋のはずなのに返ってきた低い言葉に小さく肩を震わせた。
振り返るとそこには不良息子、もとい、幼馴染の片割れ、阿含がいた。

「ち、ちがうよ!っていうかなんで勝手に人の部屋はいってきてんの変態!着替え中だったらどうすんの!」
「誰がお前の貧相な体に興味なんかあるかよ。雲子ちゃんじゃあるまいし」
「う、雲水くんは阿含と違って清らかだからそんなことに興味示しません!」
「アイツが清らか?何言ってんだよ名前チャン、アイツも一人前の中学生男子だぜ?」

う、と言葉に詰まる。
昔から同い年なのに面倒見がいいという理由で兄のように思っていた雲水くんだけど、彼にもその、そういうのはあるんだろうか。
一応中学生だし…。
いやいや、雲水くんはそんなはずない。だって爽やかだもん。坊主だけど。

「雲水くんはそんなんじゃないし!皆が皆阿含みたいなのだと思わないでよね!変態!」
「…まー雲子ちゃんはともかく薮内は俺とそんなに変わんねーよ。」

意味ありげに出されたその名前に、また肩がぴくりと震えた。

「な、なんでココで薮内君がでてくんの。」
「お前『薮内君…』なんて呟いといてなんでじゃねーだろカス。」
「べ、別に薮内くんが好きなわけじゃないし!」

阿含の言い分に無性にムカついてその辺にあったクッションを引っつかみ投げつける。
が、そこはさすが神速のインパルス。超反応で回避。
もとより、当たるとは思っていなかったけれど、いざ避けられると鬱陶しい。

「薮内みてーなカスはやめとけ。」
「だから好きなんじゃないって!告白されたの!」
「…あ゛?」

阿含の元から悪い人相が更に悪くなった。
さっきよりも眉間に皺がよっている。
『人でも殺せそうな顔』とはこういうのを言うに違いない。そんな顔だった。

「お前が告白された?あのカスに?」
「そ、そうだけど…っていうかカスカスいうのやめなよ。」
「お前がカスの肩持つなカス。薮内…なぁ。」
「別に肩持ってるわけじゃないし!っていうか断る予定だったし…ほっといブッ」

バタン。
顔にさっき私が投げつけた(避けられたけど)クッションがストライク。
おかげで視界はブラックだが、音的に部屋のドアが閉まって阿含が帰っていったんだろう。
意味わかんない。何しにきたんだアイツ。
いや、阿含が何の用もなく私の部屋にきて邪魔していくのはいつものことだけど。

なんだか妙に違和感を感じつつも、そういえば制服のままだったことを思い出し、鍵を閉めてから制服に手をかけた。
時間は5時。運動部はまだ活動している時間だった。



***



昨日の告白の返事をしようと意気込んだ本日は快晴。
6月にも関わらずこの暑さ。夏になったらどうなってしまうんだ、というくらいの暑さだった。
グラウンドではアメフト部がこの暑さの中練習している。
雲水くんも例外でなく、あの防具は暑そうだなぁと思いながら下駄箱のある玄関へ向かった。
と、その途中に薮内くんに遭遇。
普通なら周りに人もいないし、返事をしてしまおうと思うんだけれど、薮内君を見たら声が出なかった。
…ものすごい大怪我をしている。
顔は酷く腫れているし、右手とギプスがはめられていて、頭や目にも頑丈に包帯が巻かれていた。
まるでゾンビ。何かの交通事故にあったのだろうかというくらい痛々しい。

「や、薮内君!それどうし…」
「名字さん!」

怪我の割に大きな声。
その目には恐怖とかそういうものが宿っていて、私をいかにも恐ろしいもののように見ている。
え?私何かした?
原因に心当たりのないまま返事をすると、薮内君は震えた声で言った。

「き、昨日のことだけど…、その、なかったことに…してくれないかな…。」
「えっ」

昨日のこと、というと十中八九告白のこと。っていうかそれ以外薮内君と話した記憶がない。
え?なんで?
昨日の夕方のうちに何か私に幻滅したのだろうか。まさかこの大怪我が関係しているとか?
知らず知らずのうちに私が呪って事故ったとか?いやいや、そんなはずは…。

フと、嫌な予感が頭をよぎった。

昨日私の部屋を訪れた人物。そう、阿含。
まさかヤツが…いや、なんで?薮内君のことをカス呼ばわりしてたけど、それは誰にだってだいたいそうだし、気にするほどのことでもないかとおもっていた。(いや、その感覚がダメななんだけどさ。)
阿含ってそんなに薮内くんのこと嫌いだっけ?
阿含に建て付いたヤツらをボコボコにして金を巻き上げたりとか、そういうのは何度かあったけれど、何もしてないはず。

「…まさか阿含が…」
「おい名前チャン」
「ヒッ」

後ろから影が被さる。
振り向くとそこには案の定というべきか、阿含がいた。
そしてこの薮内君の怯えよう。阿含を見た瞬間一目散に逃げていった。
…間違いない。

「…阿含。薮内君のこと…」
「薮内?あんなカスしらねーよ。」
「しらねーじゃなくて。…あれやったの阿含でしょ。」
「あ゛ー?だったらなんだってんだよカス。」

…意外と認めるのは早かった。
なんでこんなこと、という意味をこめて睨みつけると知ってか知らずか、対格差を無視して肩を組んできた。…重い。

「どうせ断るんだろ?だったら引きずられて言い寄られるよりかはいいじゃねーか。」
「…そんなこと、」
「んで、俺は目障りなカスを一掃できてウレシイ、利害一致じゃねーか。よかったな、名前チャン。」
「断るつもりではいたけど、薮内君のこと嫌いじゃなかった。友達としては好きだったのに。」
「何甘いこと言ってんだ。お前は楽しい友達ごっこでいいかもしれねーが、アイツからしたらウサギがホイホイ寄ってくるようなモンだ。」
「…意味わかんないんだけど。」
「ああ、マジメな名前チャンは知らねーだろうな。アイツ、毎日名前で抜いてんだぜ?」
「…え」

言ってる意味がわかんない。
え?いや、抜くって…そりゃ、わかるけど。薮内君が?いやあの爽やか少年が?阿含じゃなくて?

「で、でもボコボコにすることはなかったんじゃ、」
「あ゛ー?レイプ志願者かよ。それとも薮内にブチ犯されたかったのか?」
「お、犯す…とか、そういうこと朝から言わないでよ!」
「純情だなァ、ま、ムラムラしたら俺に言ってくれれば処女くらいは貰ってやるよ?名前チャン。」
「朝から不潔なこといわないでってば!」

阿含のつらつらと語る下品な言葉にめまいがする。
気持ち悪い。阿含が気持ち悪いのはいまさらだけど、薮内くんが?
フと昨日の阿含との会話を思い出す。
もしかして、昨日のはそういうことだったんだろうか。

阿含に感謝は出来ないけど、彼は彼なりに私の為を思ってくれてたのかな、なんて、ありえない想像をしてみた。
…とりあえずこのことは、雲水くんに話せそうにない。





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