「辺見くんてドMだよね」
突然隣の席のやつに話しかけられた。
席替えして3日目。
いままで業務的なことですら話すことなかったのに。
初めて間近で彼女の声を聞いたのがコレだ。
「…は?」
「いやだから。ドMなんだよね。辺見くん。」
なんで俺がドMなんだ。
しかも、“ドMなの?”じゃなくて“ドMだよね”というほぼ確定したような言い方なんだ。
あとなんで否定されそうになってありえない、みたいな顔をするんだ。
俺はドMじゃない。
もっというとMでもない。
「ちげーよ」
「ちがくないよ。辺見くんはドMだよ。見てたら分かる。
ずっと見てたから。」
ずっと見てたから、
繰り返し脳内再生したその言葉に、顔から火が出るほど顔があつくなった気がした。
ずっと見てた、って、そんな、勘違いされるような…。
こんなことを言い出すようなやつだが顔はかなりいいやつだ。
所謂美少女。
やっぱり今の俺、顔赤いと思う。
いや、だがそんなことはこの際関係ない。
ドM、どこをどう見たら俺がドMになる。
どちらかというとSを自覚しているのだが。
「だって、辺見渡のMはマゾヒストのMでしょ」
「勝手に決めるな。どこのMだ。あと、違う。」
「ちがくないよ。へん“み”のMね。」
「ていうか、へんみならHじゃないのか。」
「………へぇ、辺見くんてえっちなんだ。やだ。」
しまった地雷、
なにがやだ、だ。
さんざん人をドMドM言いやがって。
畜生、かわいいつもりか。
ぶりっこか。
……かわいいけど。
「なあお前、好きなやつとかいるのか?」
「…すごく話飛ぶね。」
「いいだろ、気になるんだから。」
にやり、と弧を描いた形のいい唇。
もしかして私のコト好きィ?
んなわけねえよバカ!
「で、どうなんだ。」
「ん?好きな人?」
「ああ」
ごくり、と唾をのんだ。
「渡。」
バコンッ
「辺見!静かにしろ!」
「さ、さーせん…」
な、なんのつもりだ、こいつ…!!!
思わず筆箱をおとしてしまったじゃないか…!
「なんてね、尾刈戸の三途渡だよ。」
畜生、俺のときめきかえせ!
(ま、ほんとは辺見がすきなんだけど)(いじめるのたのしいからしばらくはこのままで!)