第一印象は、『綺麗な女』だった。
決して美人という訳ではなかった。どちらかというと、かわいい系に分類されるんじゃないかと思う。
柳生のヤツが好きそうな、清らかな女子、まさにそれだった。

(名字、さん…)

黒板の学級委員長の欄に記された彼女の名前を見る。
担任の綺麗とは言い難い文字で綴られたそれだけはやけに綺麗に見えたのは俺の頭がイカれたのだろうか。

いや、今だからこそ断言できる。
俺はこの頃から彼女に恋していた。









「さーんぼう」

3年F組の窓際から二番目前から一番目の席にお目当ての人間がいる。
薄らと目を閉じた彼は俺の一番の協力者だった。

「あぁ、仁王。どうした?」
「どうしたなんて聞かんでもわかっとるじゃろ、参謀はイジワルやのう。」
「フッ…、仕方ないだろう。まさかお前が、」

言葉を続けようとした参謀の口を自分の手のひらで塞いだ。
やめてくんしゃい、と呟くと、「悪い」と思ってもいないような声で参謀は言った。

前述した俺の一番の協力者。
何に対する協力かはそろそろお察しだろう。
俺の人生初の片思い、初恋に対するである。

俺の恋する少女Aこと、名字名前ちゃん(勝手に脳内では名前呼びしている)は、俺よりも柳のほうが接点が多い。
生徒会書記と学級委員長だから会議は同じだし、名前ちゃんの趣味も読書だからよく図書館で合うそうだ。
その上、二人とも気があったものだからそれなりに仲がいいと。
二人が仲良さげに話しているのを目撃した俺が参謀に名前ちゃんとの関係を問い詰めたところからこの協力関係は始まった。
誰にもバラすつもりがなかったこの想いがまさか参謀にバレてしまうとは、正直もう終わりじゃ、と思った。
が、話してみると意外にも俺を応援する気らしく、じゃあ頼むということで、柳に名前ちゃんのデータ集めを依頼したのだった。

「んで、今日はなんかないんかのう。」
「…お前は毎日毎日此処まで訪ねてきて、データが一日で莫大に増えるものとでも思っているのか?」
「じゃって、きになるんじゃもん。」

率直な思いを口にすると、参謀は呆れた様に笑う。
そりゃそうじゃ、だってこの純愛とは無縁な俺がこんなにも固執しているんだから。
参謀からしても面白くて仕方ないんだろう。これがきっと参謀が俺に協力してくれる理由だ。

「…データはあまり集まっていないが、いいものを手に入れた。」

いいもの?と首をかしげる俺に柳は内ポケットを弄りそれを取り出す。
柳の大きな手に乗せられていたのはどこかで見覚えのあるシャーペンだった。

「これ、」
「名字のものだ。昨日委員会の会議があってな。」
「まさか参謀、盗人に手を出すとは…。」
「そんなわけないだろう。これは忘れ物だ。」

忘れ物、というからには参謀が態と取ったわけではないんだろう。
もしそうだったら、俺はおまんを軽蔑するぜよ。
…ストーカー紛いなことをしてる俺が言えた事でもないが。

「で、コレをどうするんじゃ。まさか本当に盗むわけじゃ…。」
「馬鹿を言うな。これをお前が名字に渡して来い。会話の切欠になるんじゃないか。」
「………。」
「お前はまだろくにアイツに話しかけられないのだろう?」
「……参謀、好きじゃ!」
「それは名字に言ってくれ。ほら、後2分でチャイムが鳴るから渡すなら次の休み時間にしろよ?」
「…わかったナリ」

まさかの参謀の手助け。
周りから見つめるだけじゃなく、話す切欠をくれた。
今まで細目だのなんだのいってすまんかった。これからは天使って呼ぶナリ。(あれ、赤也?)







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