揺れる長い髪。
何年伸ばしたのか、検討もつかぬその髪に俺は目を奪われた。


サラリと肩に落ちるそれ。長くて量がある割には軽やかで、歩くたびに踊るように跳ねる。
まさに、サラサラという擬音が似合うだろう。
今は昼休み、まだ帰るには早すぎる時間なのに、彼女はスクールバッグを持ってどこかへ向かう。
別に、教室にかばんを置いていると何かなくなるとか、そういうことではない。
彼女は生まれつき体が弱かった。
人並みの生活は、薬を飲んでいれば可能。でもふとした拍子に倒れることがある。
そんな条件で生きてきた彼女の周りには、不思議と人が集まった。
心配と好奇心と、あとは彼女の持つ本来の魅力。
それらが奇妙に合わさって人を集める。異性も、同性も。

彼女に偶然を装うように着いてゆく。
行き先は勿論保健室。
かばんを持とうか、と誘えば隣を歩けるけれど、生憎彼女と俺はそこまで親しい仲ではなかった。

廊下を歩き、階段を降り。
すれ違う生徒たちが幾度か彼女を見て振り返る。
病的に白く、そして美しい彼女に目を奪われるのはしかたない。


「妬けるのう…」


友達でもないのに、と自らを嘲笑する。
と、言っている間にも保健室へたどり着いたようだ。

こんこん、彼女が保健室の重い扉をノックする。
…どうやら、留守のようだった。

ガラリと音をたてて保健室の扉を開けて、中へ入る彼女。
それを目で追うものの、すぐに扉は閉じられた。








十分ほど経っただろうか。
そろそろか、と心の中でつぶやき、俺は携帯のサブディスプレイを見る。

「…よし」

ガラリ、先ほどと同じ音を立てて、俺はそこへ忍び込んだ。



白で統一された部屋。薬品の臭いが鼻につく。
利用者一覧表にある彼女の名前を確認し、その下に自らの名前を書いた。婚姻届みたいだ、などと思いながら。


さて、後は簡単。
そっと彼女が眠っているであろうベッドを覆い隠すカーテンを開ける。
爆睡しきっているのか、警戒心が薄れているのか。
俺の存在に全く気づかない。


他のヤツでも気づかないのだろうか。
俺は彼女のその長い髪に手を伸ばした。
見た目どおりの細く軽い髪。指に絡ませて口付ける。

「ホントに気づかんのう」

もうすこし、もうすこし立ち入ってもいいだろうか。


ベッドに手をつけて、体重を預ける。
先日買い換えたばかりというベッドは、その程度じゃ軋みもしなかった。
頬に掛かる彼女の髪を指で払いのけて、頬に指を伝わせる。
病的に白い肌をすべる自分の指。
頬からするすると下ろしてゆくと、それはある一点にとどまった。


「唇」


肌はこんなにも血色が悪いのに、唇だけは誘っているといわんばかりに赤い。
薄く開いて、どこか水気を帯びたそこに、俺は誘われるまま口付けた。


合わさるだけの小さなキス。
男にしては長い自分の髪が彼女の頬に刺さっていないか心配で、すぐに顔をあげてしまった。
眠ったままの彼女。
今までキスなど数え切れないほどしてきたというのに、俺はひどく高揚した。
舌をいれたわけでも、唾液を絡ませたわけでもない。
ただ唇があわさった、というそれだけなのに。
自分の顔が真っ赤になるのが分かる。
熱い、クーラーが効いているはずなのに。



俺は自分のやり場のない熱をなんとかすべく、保健室を出た。










Rapunzel






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