朝8時00分。
眠いからだを無理矢理叩き起こし、今日も私は学校に向かう。


学校に着くと、そこには誰もいなかった。
いつもならば、ボールを打ち合う軽い音が聞こえるのだけれど、どうやら今日はテニス部の練習はないらしい。


「む、名字」
「あっ真田くん」


無人のテニスコートを眺めていると、後ろから声をかけられた。
誰もいない、と思っていたのは間違いだったらしい。
向こうから段ボールを持った真田くんが歩いてきていた。


「朝早くからすまんな」
「いやいや、別にいいよ」


いつもならば、私は8時10分に学校に着く。
なぜ今日だけ早いのか。

そう、今日は風紀委員抜き打ち服装点検の日だ。



「名字はいつも早いな。」
「いや真田くんほどでは。」



四時おきの真田くんには叶わない。
それに、こうして早起きするようになったのも風紀委員に入った時からだ。
ちなみに入った理由は、じゃんけんで負けたからである。
ダサいことこの上ない。

まぁ服装は乱れてないし、こういうの苦手じゃないし、いいんだけど。
やってみれば凄くやり甲斐のある委員会だ。



しばらくすると、柳生くんが校門の向こうから走ってくるのが見えた。
ジェントルマンらしからぬ焦り具合だ。
まだ誰も来ていないから、そこまで焦る必要はないんだけど。


「おはよう柳生くん」
「おはようございます、名字さん。」
「なんでそんな走ってたの?」
「少し寝坊してしまいまして」


たしかに少し髪が乱れている。…のは走ったからか。
柳生くんは今日が服装点検の日だということをすっかり忘れていたらしい。
まあ、紳士でもそういうことはあるだろう。
紳士も人間だしね。


「二人共、生徒が登校してきたぞ。持ち場につけ。」
「はい」




















「名字サンスカート長いのぅ」
「だよなーもうちょっと短くしよーぜ!」


目の前にはしゃがんでスカートの裾をぴらぴらとめくる仁王くんと、このくらい、と膝上約20センチに手を当てる丸井くん。

服装点検から数十分。
私はこの二人に絡まれていた。


「あっ、ちょっうあっ、仁王くんスカートめくらないで!」
「ええじゃろ減るもんやないし」
「丸井くん助けてよ!」
「よし仁王今だ!」
「ぺろーん」
「いぎゃあ!!」



こ、こいつらスカート全めくりしやがった!!
そのせいで女子らしからぬ叫び声をあげてしまったが、元々キャッとかそういうキャラではないので気にしないでおく。
二人はといえば、悪びれもせずにやにやとやらしい笑みを浮かべていた。
心の中でしね!と罵倒しまくるが外では真っ赤っかだ。
そりゃ校門でパンツ公開なんて恥ずかしすぎる。
幸い、見てる人は少なかった(みんな叫ぶ真田くんを見ていた)が、多少は見ているわけで、




「…ッ仁王くん!!」



そして彼も多少の一人だった。


「や、柳生く」
「なんじゃ柳生、名字さんのパンツ見たんか?」
「みみ、みみ…みて…ってそ、それはいいです!女性のスカートをめくるとはどういうことですか!」
「じゃって」
「じゃってもくそもありません!」
「柳生こえー」



柳生くんにバレた、ということが発覚すると、じゃあ俺いくわ!と丸井くんは逃亡。
仁王くんのまちんしゃい!という声は華麗にシカトされた。
仁王くんの柳生くんによる説教は確実だ。ざまあみろ。
その間にも生徒は登校するので、私は柳生くんの分も服装点検していく。

…丸井くん、スルーしてしまったけどネクタイゆるゆるだったし腰パンしてたよな…。
思い出して紙にチェックをいれておく。ざまあみろ。


「名字さぁーん」
「ヒッ」


紙に丸井ブ、までかいたところで背中になにか重いものが張り付く。
それは紛れもなく、さっき私のスカートをめくりやがった銀色だった。


「ななななな、なに?!」


はなして!と肘で脇腹をつつくが効果なし。
仁王くんは私の肩を持ち、ピタッと私にひっついている。
やめて、仁王ファンクラブの子ににらまれる。
と、いうか現在進行形で睨まれている。
そのキツい視線に注意をとられていると、ふと太ももにおかしな感覚。
見ると仁王くんが私の太ももを撫でていた。
しかも、無駄にエロスな手つきで。
な、なんなんだこいつは。


「名字さんスカート長すぎ」
「ほ、ほっといて!てか手はなして」
「規定より長いじゃろー?ほれ腕あげて」
「へっ?」


太ももの感覚が消えたかと思えば両腕をぐい、と上に持ち上げられ、万歳のようなポーズになる。
そして、無防備になった横腹にあるスカートのホックをはずされた。
それは先程の場所よりも上に止められ、スカートの長さはより短くなる。
呆気にとられていると仁王くんに、もういいぜよと腕を下ろされた。


「うわ」
「まだこの長さなら真田も怒らんじゃろ」


スカートの長さは膝丈少し上になっていた。
たしかに、許容範囲ではあるけれど、今までに比べたら短すぎる。
いや、今までが長すぎたのかもしれない。
とにかく、ロングスカート派の私には違和感だらけだった。



「よし、やーぎゅっ」
「えっ」


唐突に仁王くんは柳生くんを呼びつける。
服装点検に区切りがついたのか、すぐに柳生くんはやってきた。


「なんでしょうか」
「どうじゃ!」


ばん!という仁王くんの口頭での効果音がついて柳生くんの前に出される。
柳生くんは最初なんのことかわからないような表情をしていたがすぐに気づき、おお、といった表情をした。
おお、ってどういう意味だ。
なぜその表情。


「ええじゃろ?」
「ま、まあよいと思います。」
「えっ」


よいと思います、じゃない。
なにがいいんだ。
ていうか柳生くん風紀委員なのにこんなこと言っていいのか。
ほら、真田くんに「スカートを短くするなどたるんどる証拠!」とか言って、伸ばさせてよ。


「や、柳生く」
「すみません、私も男子なんです。」




その日から私のスカートはこの長さになった。









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