「あっ」
中間試験開始5分前。
今さらになってだが、消しゴムを忘れたことに気づいた。
きっと昨日復習をした後、机の上に置きっぱなしにしたからだろう。
みんな暗記に集中していて、今さら立ち歩いて友達に消しゴム貸してなんて言いに行ける雰囲気じゃない。
だからといって消しゴム無しでのテストは無謀すぎる。
シャーペンの裏についている消しゴムは小さすぎるから使い物にならないし、円形だから転がっていったらそれこそおわりだ。
ああどうしよう。
きっと今の私は、絶望の淵に追いやられたみたいな顔をしてるんだろう。
むしろ今まさにそうだし。
「…あのー」
「えっ」
うんうん唸っていると、メシアがそれに気づいたらしい。
隣の席の忍足くん。彼がメシア。
そうだ、彼はちょっとした消しゴムマニアだった。
もしよければ拝借したい。
「消しゴム忘れたん?」
「う、うん」
「そっそうなん!うん、ほ、ほなこれかしたる!帰りに返してくれたらええから!」
「えっ、あ、ありがとう」
忍足くんはそれだけ言うと、すぐに机に向き直った。さすがスピードスター。
しかし渡されたこの消しゴム、もしや消しやすいと評判の忍足くん愛用消しゴムじゃないか?
結構高いみたいだし、予備はないだろう。
まさか、私に使いやすい方を貸してくれたんじゃ、
忍足くんに声をかけようとしたところで、テストが配られはじめたので、私はそちらに集中した。
お礼は後でいいや。
さっきから隣の席でうんうん唸る彼女
どうやら、消しゴムを忘れたらしい。
俺に言うてくれたらいくらでも貸すのに。
思いながらも声をかけられない自分のヘタレ具合に嫌気がさす。
こう、白石みたいに爽やかに言えんのか。
消しゴム忘れたん?俺の貸したるわ。お礼なんかいらんて。ははは。
うわあ、自分で脳内再生して鳥肌たった。ないわ…。
まあええ、俺は白石やないねんから、自分なりに声かけよ。
ああもうあと3分ないやんはよしろ俺。
「あのー…」
「えっ」
あのーてなんやねん!
道尋ねとるみたいやん!
彼女もえっ、てびっくりしとるし。
うわ俺かっこ悪っ
「消しゴム忘れたん?」
「う、うん」
「そう、なん!うん、ほ、ほなこれかしたる!帰り返してな!」
「えっ、あ、ありがとう」
それだけいいきって手元にあった消しゴムを渡した。
消しゴムはいっぱいあるし、どれ貸してもよかったけど、一番消しやすくてお気に入りのを渡したのは、彼女の快適なテストへの手助けなんやろか。
うわ、はずかし。