※スペインさんがヤンデレ
明かり入らぬ屋敷の一角。
明るく、ヨーロッパというよりアジアを思わせるような、不思議なスペイン伝統デザインのカーペットの敷かれた暖炉のあるあの部屋とは似ても似つかぬこの赤褐色と濁った石灰の色を混ぜたような鉄の臭いしかしない部屋に、私はいた。
「なあ、どないしたん?そんな怯えて。」
怯えてるのは貴方によ、と言えぬ威圧感を放ち、真っ直ぐ、真っ直ぐに延びてくる。
カツン、カツンとコンクリートに固いブーツがあたって音をたてている。
じわじわじわ、と近づいてくるスペインはまるで昔の海賊。
目には一筋すらの光を宿すことなく、不気味に口端だけつり上げている。
乾いて赤黒くカピカピにこびりついた、かつて血塗れだった西洋刀を片手にして。
「なあ、別にそんな怯えんでええやん。なにが怖いん?親分わからんわあ。」
ロマーノ、ロマーノ、助けて、あなたの親分がいま大変よ、うわあどうしましょうか。
イギリスとはまたちがうグリーンの濁った瞳はずっと私をとらえていた。
太陽の香りのするベッドに飛び込んで、平和やなーなどと抜かしていた筈のスペインは、いまはその影もなく怪しく微笑んでいる。
同一人物か、と疑われても可笑しくないくらいの豹変を目にして、私は軽く唇をかみしめた。
「俺は名前が苦しそうやから結婚したろか言うてるだけやんか。」
ちがうちがうちがう、ならばあなたの手の血塗れた凶器をおろして。
手にあるのは指輪でしょう?笑顔でカーネーションの明るさで、結婚してくれへん?と優しく微笑んで。
あなたは私の愛した人間じゃないわ、国だけれど。
「大丈夫やで、浮気せえへんから。泣かんといて、名前と俺には鎖つけよ、絶対離されへんから、誰にも――な?」
縛り付けられるのは私でしょう、ねえ、だから違うのよ。
何がちがうかって?
決まってるわ、愛よ。
フランスみたいな大きくて溢れでるような愛は求めないけれど、せめて苦しさは嘆かせて。
「大丈夫、大丈夫。大丈夫やで」
後ろにコンクリートが現れた。
打ちっぱなしのそれはザラリとしていて肘をかすった。
まずった、あとがない。
それでもスペインはずっとずっと歩き続ける。
私の涙も見ないように、苦しんでいることを知らないように。
知ってしまわないように。
「大丈夫やからな、」
ずいぶんと彼が大きく見えた。
ああ、口付けを交わすのか、
目を閉じれば優しい感覚、スペイン、スペイン、ああ愛しいスペイン。
「永遠に、」
一緒やからな
そう呟いたあと、手には金属がはめられた。
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