この床に眠って幾年が経ちましたでしょうか、私はそれを遠い過去のように思い出しますが、彼はつい最近だと仰います。
貴女が生まれて、病に冒されていると診断されて、それはとてもとても短い時間でしたよ、と彼は桜の花のように可憐な笑みをうかべました。
彼が男性であることを忘れてしまうくらいに美しい顔立ちは、爺と名乗るには余りにも幼すぎたかと思うのです。
そんな彼は、私の眠る床に毎日のようにいらっしゃいます。
私は、彼に忙しくないのですか、と問いましたが、彼はすこし首を揺らして、愛すべき貴女の姿を見ぬことの方が苦痛なのですよ。そう答えられたのです。
そんなことを仰いますから、私は恥ずかしくなりまして頬を梅のように染めました。
彼もまた頬を染めて柔らかく微笑んでくださいました。
私は幸せです。
動かぬ躯を持ちながらも、毎日のように愛する人が会いに来て下さるのです。
私にはこれ以上の幸せはないようにも感じました。
桜の花も散りきり、日差しの強い夏の日となりました。
蝉の声が、私の床にも響き渡ります。毎日、布団で眠るのもなかなかの苦痛と言えましょう。
それでも彼は来てくださいました。
薄手になった着物をまとい毎日、毎日。
変わらずにいらっしゃいます。
七月七日になりました。
七夕と呼ばれる夜です。
笹の葉に短冊という紙を結い、願いを掲げるのです。
天の川が出来て彦星様と織姫様が出会われるのです。
私たちのように毎日会うことのならない二人は、天の川で抱き締めあい、愛の言葉を囁くのです。
愛しています、愛しているわ、二人はきっと私を羨ましく思うでしょう。
彼らが年に一度しか会えないのに対し、私たちは毎日のように愛を囁いているのですから。
ああ愛しています、愛しています。
せめてこの病が死す時までは、私と一緒にいてください。
たとえ、それと私が共に果てることとなってしまっても。
(雨に打たれて天の川が溢れてしまえばいいのに)
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