蛍光色に、元気なヒーローが描かれたいかにも体に悪そうなケーキを、奴はばくばくととても幸せそうな顔で食べていた。

どろりとした赤色の生クリームが、彼の口の中に入るのを見るだけであたしは胃液が逆流するような感覚を覚えるのだ。

時々茶色に、白い泡の浮かぶコーラをぐいっと飲み干して、またケーキに食らいつく。

そういえばコーラに塩を入れると泡まみれになると聞いたことがある。

実行してやろうか、そう少しかんがえた。

いや、やめた。

やつの手は常に茶色い液体の入ったグラスを握り締めている。

そんなことしたら彼はどうなるのか。

考えただけで恐ろしい。


ばくばくばくばくばくばく。

半径20センチもあろうかという蛍光色の派手で大きなケーキは、金髪眼鏡、アルフレッドによって食いつくされようとしていた。

切り分けずに一人で食べるアルフレッドは、すでに表面に書いてあるスーパーマンの下半身がなくなるほどの量を食べていたのだ。

香辛料と着色料でできた生クリームは、微かにやつの口についている。


「アルフレッド、食べ方汚い。」

「ふぇ、らんらい?」


もがもがもがもがジューゴゴゴ。

ケーキとコーラを交互に食べるアルフレッドの言葉はあまりにも聞き取りにくいものだった。


「もが、びみぼ、たれたばようばび?」

「何言ってるか全く分かんないよ。」

「ん…、」


アルフレッドは手を止めて蛍光色を飲み込んだ。

ああ、そんなだから太るんだ…。

落ち着いたのか、あたしを見据えて再び言った。


「君も、食べたらどうだい?」


こんなカラフルな毒の塊とも言えなくはないコレを…?

無理無理無理、無理だってば。

アルフレッドは先程まで自分がケーキを食べていたフォークでそれを一口大に切り分け、刺してあたしの口に近づけた。

あまりにも近かったので、少し唇に生クリームがついた。

ぺろり、と少しなめるとなんともブルーベリーの言えぬ味がした。


「うわ」

「どうしたんだい?食べないのかい?」

「いや…いいよ、あたしは」


なんでだい?といいつつあたしに突きつけたケーキをぱくりと一口で食べてしまった。

彼の着ている変な日本語の書いてあるTシャツの下腹部は、たゆんとした贅肉がついていた。

試しに、ペランとその薄い布をめくるとぽよぽよとした脂肪のついた腹が現れた。


「何するんだい!」


ヒロインにあるまじきことだぞ!と、あたしの手を話そうとするが、あたしがTシャツを手放すようには見えない。

あたし自身のことだが、変な攻防戦が出来上がっていた。


「…ッ、たあ!」

「?!」


あたしの手が離れないのを確認すると、アルフレッドはこともあろうにあたしのキャミソールに手をかけてきた。

しかもあたしの貧相な下乳が見えるまで。

必死に抵抗するが、押さえる力の方が必要なようで、アルフレッドの力とは互角以下のあたしは、キャミソールを押さえる手を払い除けられた。


「なっ…なにす…、」


あたしの手は既にアルフレッドのTシャツにはなかった。

彼の両手が私のキャミソールに引っ掛かっていて、10センチでもあげればあたしのアルフレッドの友人と比べられないほど貧相な胸が露になる。


「ちょ、やめなさいよ!」

あたしの制止の言葉も聞こえぬ、と言うように彼はゆっくりとピンクのキャミソールをたくしあげた。


「や、やめてよ!なんなのよ!」

「今日は俺の誕生日なんだぞ!だから、好きにさせてくれよ!」


何言ってるの、ばかじゃない。誕生日プレゼントならあのケーキじゃない。特注なのよ。

でも俺は、名前が欲しいんだぞ。いいじゃないか、もうアーサーたちも帰ったのだし。

よくないバカ。バカバカ。






次の日、アーサーからメールが届いた。



“今日は休めよ”



毎年、7月5日は仕事を休むハメになるのだ。







アルフレッドハピバ!




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