「アイスくんどうしたの?」


黒板の文字は、6月17日。

今日はおれが生まれた日、誕生日。

だというのに、彼女の名前は何もしてくれない。

何か欲しいわけじゃないけど、おめでとう、のひとつもないなんて寂しい。

もしかしたら言ってなかった気がするけど、付き合いだした最初のほうにおれのことについてノル兄に色々聞いてたから、知ってるはず。



……もしかして、忘れてる?



なんで、意味わかんない。

おれは名前の誕生日、ケータイのカレンダーに登録してるのに。

別に期待なんかしてなかったけど、こんなのあんまりだ。


「アイスくん?」

「なに?」

「…なに、も…。なんか、元気ないなって思って。」


元気ないのは名前のせい。

天然で鈍感なとこが好きなはずなのに、なんだかいらいらする。


ノル兄から貰ったうさぎのぬいぐるみがボタンの目で見ている。

薄いピンクのそれは、男にあげるにしてはかわいすぎるとおもうけど、名前は気に入っているようだった。

ぎゅうぎゅう抱締められているうさぎは、「どうだ、うらやましいだろう」と言っているようにもみえた。

流石にそれは幻覚だと思うけど(おれはノル兄みたいに妖精は見えない。)、やっぱりうらやましい。

もしも、うさぎがデンさんだったら、おれは間違いなくパフィンと一緒に攻撃をしかけるにちがいない。



「……いみわかんない。」

「なにが?」

「名前が。」


うらやましい、うっとうしい、うらめしい。


色んな感情があたまのなかで交差する。

ぐるぐるぐるぐるまわって、螺旋を描いて、からまってとれなくなる。



「アイスくん」

「なに。」


「あ、あのね。」



名前は別れ話を切り出すかのような慎重さでおれに話しかけた。

そんな、今日はおれの誕生日なのに。

でも、顔はほんのりとピンクにそまっているし、口端はわずかにつりあがっている。




「お、おたんじょーび、おめでとう。」



眉をハの字に下げて、でも優しそうにおれに微笑んで、名前はそういった。


確かに、確実に、小さな声で。



「…え」


「あ、え、と、あの…きょう、誕生日、だよね?ちがくないよね?」

「…そうだ、けど。」


なんで、なんで、なんで。


「え、と…あの、ノルさんとデンさんに作り方おしえてもらって、おかし、つくったの。」

「うん」

「だから…食べてほしい。」

「いいけど…」



なんで知ってるの、(ノルさんもデンさんもスーさんもフィンさんも、前から準備してたもん。)


なんで手作りなの、(だって、いっぱい喜んでもらいたかったんだもん。)


なんで…なんで。



「…いみわかんない。」





ほら、頭の中の螺旋が解けた。





「Til hamingju með afmælið」









うれしいきもち













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