「ねえ、フランスが来たんだって、ね。」


アメリカさんは、ネクタイを解きながら私へと近づいてきました。

いつもはキラキラ輝いている、私の大好きなアメリカさんの空色の瞳。

今は、泥を混ぜたかのように濁って、光が見られないのです。


「ご、ごめんな…さ…。」


私が謝るとアメリカさんは尚更不機嫌な顔をして、目を細めました。

ゆっくりと歩調を変えずに、でも確かに近づいてくるアメリカさんは、私の最期の時にも思えてくるのです。

そして、彼は私の前までくると、ゆっくりと口を開いて尋ねられました。


「…フランスと何か、した?」


私はワンピースの裾を握りしめました。

いいえ、アメリカさんの思っているような、“なにか”をしたわけではございません。

だけど、そんな顔をされたアメリカさんに私は震え上がってしまい、なにも口にすることが出来ないのです。

それでも、無言は肯定。

私は、拳で殴られ、地面に叩きつけられました。


「っぐァ、」


アメリカさんは絶対に顔を殴りません。

お腹をなんどもなんども殴るのです。

いつか、私が子を身籠ったとして、きっとアメリカさんに殺されてしまうのでしょう。

殴られて…―――



「はあ、何でだい?キミは俺の物だ。反対意見も認めない。最初に、そう言ったじゃないか。」


アメリカさんはしゃがんで私の前髪をつかみあげて、視点をあわせました。

私は植民地、貴方は大国。

天と地の差のような違いがある。

それでも、彼はイギリスさんの植民地だった。


私はアメリカさんから逃れることが出来ない。

もしも、独立何てものをしようとすれば、日本の脇腹に落としたあの恐ろしいものを私の頭蓋に落とすのでしょう。

そうでもして、国民を殺して、空っぽになった私を鎖に繋ぎ止めるのです。

私は一生檻の中。


「…君が悪いんだから。」


そうして彼は私を組み敷いた。





(誰か助けて)(誰も助けないで)





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