「幸村さまぁーおだんご買って参りましたぁー」
真剣な表情で特訓をする幸村さまに声をかける。
先程城下で幸村さまの好きな団子を買ってきたので、一緒に食べようかと誘ったが…
「お」
幸村さまは特訓に真剣で回りの音が聞こえないようだった。
そんなに真剣に取り組むとは、関心関心などと心の中で呟いて、私は縁側に座って幸村さまを眺める。
額に浮かぶ汗や、いつになく真っ直ぐな視線が元より整っている顔をさらに飾り立てるようで、私はついそれに見とれてしまった。
団子を食べているときのようなかわいらしい表情も好きだが、やっぱり槍を手にした幸村さまはかっこいい。
しばらく見ていると、幸村さまは手を止めて、わたしに視線を向けた。
さすれば大層驚いた顔をしてわたしの方へやってくる。
「姫!いつからおられたのですか?」
「幸村さまが鍛練に励んでいる時にです。おだんごを買って参りましたので如何ですか?」
「もっ、申し訳ございません!某、姫をおいて…」
「いえいえ、鍛練に励む幸村さまはとてもかっこよかったですよ。」
にこりと笑うと幸村さまも顔を少し赤くして笑みを返してくれた。
彼のこういうギャップに私は弱い。
「お茶もありますから、さあ」
「…忝ない、頂きまする。」
少し頭をさげて、幸村さまは団子に手をつけた。
多目に買った団子は、あれよあれよと幸村さまの胃の中へ収まって行く。
「よく食べますね」
「もが、」
「喉に詰まりますよ」
にこにこした笑顔は犬のような愛らしさ。
ああ、私の目には幸村さまにいぬの耳と尾がついてみえます。
でも私の目は悪くないと思います。だってこんなにも尾を振るいぬの様なんですから。
「あら、幸村さま。頬に蜜が」
幸村さまの唇横についている飴色をした蜜を指ですくいとり、私の口へいれる。
少々はしたなかったか、と幸村さまをみると目を白黒させ、顔は耳まで真っ赤にしていた。
「ひひひひひ、ひ、姫!!!!」
「はい?」
「いい、いま、そ、某の、唇から…」
「はしたなかったでしょうか、申し訳ございません」
「いい、い、いえ、姫があやま、ることでは!!そ、そそ某が…!!!!!」
バタバタとなにやら暴れて、幸村さまは手にあった団子をくちに放り込むと廊下を走っていった。
皿には大量の団子があった筈だが、それらはすべてなくなっていた。
いつのまに…。
「はははははれんちぃいいい…!!!叱ってくだされおやかたさまああああ!」