「ねえ有人」

「………なんだ。」


本日は日曜日。

本来であれば学生は休日である。

だが、やはり名門帝国学園のサッカー部に休みはなく、わたし含むサッカー部のメンバーは鬼道家にミーティングにきていた。

なぜ部室ではないのかというと、あの暑苦しい制服を着てなんだか無駄に機械の多い学校でそれを行うよりも、私服で金持ちの友人のエアコンガンガンにきいた広い屋敷でメイドさんにジュースとお菓子を用意してもらいながらするほうが、当然のようにいいだろう。

最初は渋っていた有人も、彼女であるわたしからのお願いとあっちゃあ聞かないわけにもいかない。さすが。

彼氏の家に来るのももう何十回目。

有人のお父さんにも彼女として認められ、なかなかなじんできているわたしは、別にマネージャーだからといって何をするでもなく大きなソファーに寝そべってテレビを見ていた。

部員さんたちはなにやら真剣な面持ちで話を進めている。大方サッカーの話。いや、それ以外にしてたらそれはそれでどうかとおもうんだけど。




―――それよりも、暇だ。


さっき述べたとおり、みんな真剣に話をしている。

なんとなく入ったサッカー部の話をわたしみたいな素人がわかるはずもなく、こうしてテレビを眺めているわけなのだが。

いや、ほんとうに暇だ。



そんなわけで、有人に声をかけ、冒頭に戻る、というやつだ。



「ゆーぅとぉ、ひまだよーひまーひまひまひまひまわりー」

「(ひまわり…)名前、静かにしてくれないか」


くるり、と不機嫌丸出しで振り向いたマイダーリン。

ゴーグル越しに眉間にしわを寄せた有人と目が合った。

わたしのダレた声に若干の鬱陶しさを感じたのか、声にとげを含んでいる。


「やーだぁー暇だよーおい咲山、なににやにやしてんだよこっちこい」

「…咲山のどこがにやにやしてるんだ。むしろ口覆っててわかんないだろ。」


暇すぎるので咲山にちょっかいをかけてみる。

だが、見事なまでに有人につっこまれ、話を途切れさせられた。ちくしょう。

不良の癖にわたしに優しいサッキー(咲山)はなんだか申し訳なさそうにちらりとわたしを見ている。

その仕草は子犬のごとく、ああかわいいな!

なんかぎゅってしたい!


「さっきー…ぎゅってさせてくれ」

「咲山、相手にするな」

「……はぁ、」


その気持ちを言葉にしたら、有人は不機嫌丸出しでサッキーを睨んだ。

サッキーを睨むことないのに。ちぇ、不機嫌なヤツはやだねえ。

ふと、横を見たら辺見が笑いをこらえているようにじたばたしていた。

其れが若干、いやかなりイラっときたのでちょうどあったリモコンを投げつけてみる。

リモコンは丸い角がちょうど眉間にヒットした様で、辺見は「あぶぁッ」とよくわからない声を上げて後ろへ倒れた。

流石わたし。


「……名前」


中学生とは思えないようなドスのきいた低い声。

コイツの喉からまさかこんな声がでるとは。

相当イライラしているのだろうけど、わたしは悪びれた様子もなく言葉を返す。


「なーによゆーとくん」

「怒るぞ」

「うわ怖い。ちょ、源次郎助けて」

「ダレだよ源次郎」

「源田幸次郎、略して源次郎」

「………。源田、そいつを捕まえろ」


せっかくボケてみたのに。なんで受けないの。

眉間にしわを作りに作った有人が余りに睨んでくるものだから、幸次郎の後ろに隠れてみたものの、キングオブゴールキーパーにひょい、と腕を捕まれ前に突き出される。

ちくしょう…!裏切り者!

そんな意味を込めて一睨みしておいた。

おい、なんだその微笑みは。いらってくるぞ。


「源次郎のばか!いや、お前なんてもうゲンゴロウで十分だ!」

「…既に人間ですらなくなったな。」


こうなれば!とちらりとマイ癒しである佐久間きゅんに視線を向けてみた。

すると彼は洞面くんとペンギンと戯れていた。

なんて天国!!!

………ってそうじゃない。いや、かわいいけど。

彼らは有人の怒りに気づいているのか、それとも無視をしているのか。

いつもの有人の崇拝っぷりはどうした。地味に空気読みやがって。




「名前、頼むから静かにしてくれないか。」

「…だって有人が構ってくれないから悪いんだもん」

「(…だもんって…)ミーティングが終わったらいくらでもかまってやる。早く終わらせるためにはじっとして貰わないと無理なんだ。頼むから。」


必死な様子で頼み込む有人。

でもやっぱり暇なんだもん。謝るだけじゃ暇は直らない。ゲームでも持ってくればよかったのに。

そこで気づいた。



「…………だれか一人暇つぶし係作ってくれたらいいよ。」

「…………………。」

「ほらぁ。寺門とかぁ、サッキーとかぁ、死んでるけど辺見とかー」


ここで死んでねえよ!と辺見のつっこみが入ったがこの際は無視だ。

誰か一人でも構ってくれればいいんだ。うん。有人である必要は皆無である。

名指しされた人たちは罰が悪そうに目線を下へと向ける。

なんなんだ、この仕打ちは。


「ねー源次郎もなんか言ってよー」


首に巻きついて言ってみると、源次郎、ではなく幸次郎は顔を少し赤くしてそれをわたしからそむけた。



「…だから俺は源田幸次郎だ。」

「ぶー」










「………名前」





不意に今まで黙っていた有人から声がかかる。

お、構ってくれるの?と笑顔で顔を覗き込むと、




なんだか、あれ…え?


ちょっと、ゆーと、さん?





なんだか、様子がおかしくありません?










「わかった。構ってやろう」

「いや、あれ?」


「皆、悪いが今日は解散だ。」

「え、ちょ、なんか…ゆーと?」









「俺はコイツの腰が立たなくなるまで構ってやることにした。」













…あれーなんだかフラグたってません?





部員の皆さんは顔を赤くしたりにやにやしてたり俯いてたり特に変化がなかったり、まぁそれぞれだが帰るかーみたいな雰囲気をかもし出している。

え、ちょっと、なにこれ。




「え、源次郎助けて」

「悪いな、名前」



「佐久間」

「洞面、アイス買って帰ろうな」

「うん」



「…サッキー」

「………がんばれよ」



「辺見」

「まあ、明日休むときはメールしろな」







サッカー部って冷たい!










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